第3話:闇に凍りついた絆

 私は地下室に御姉様を安置しました。

 御遺体が傷まないように、氷魔法で氷結させました。

 同時に誰も入れないように、厳重な結界を施しました。


 御姉様の御遺体を奪おうとする者に、情けも容赦もいりません。

 死と呪いの魔法を幾重にも仕掛けました。


 その上で、私自身の問題も超えなければなりません。

 ずっと地下牢に閉じ込められていたので、不健康に真っ青なのです。


 体力も全くありません。

 髪も肌も手入れした事がありません。

 双子とはいえ、御姉様とは似ても似つかないのです。

 

 ですがそれは、苦しいですが言い訳になりますが、死の淵を幾十日も彷徨い閉め切った地下室で治療されていたと言う事ができます。


 一番の問題はマナーと挙措です。

 食事にしても歩き方にしても、全くマナーが備わっていないのです。


 公爵令嬢に相応しいマナーや立ち振る舞いなど、一朝一夕で身につくようなモノではありません。


「付け焼刃で構わん、何とかたたき込め」


 アンドレアがグレタに無理無体を言います。

 ただ一人私を愛し世話してくれた乳母。


 双子の私を忌み嫌い、その場で殺せという実母のエンマを説き伏せ、他の場所で殺すべきだと嘘をつき、その場を凌いでくれたそうです。


 実父のアンドレアには、多くの子供が五歳までに死んでしまうので、予備の子供を確保しておくべきだと説得し、私が殺されないようにしてくれました。


 グレタ自身がそのような事を口にした訳ではありませんが、長年グレタしか接する相手のいなかった私には、グレタの考えは全て察する事ができます。


 いつか私が実力で地下牢をでられるように、勉強を教えてくれました。

 忙しい中で魔導書を写本して私に与えてくれました。

 お古ばかりですが、定期的に衣服も整えてくれました。


 御姉様に私の事を告げてくれたのもグレタです。

 御陰で私は御姉様と会うことができました。


 グレタとお姉様のお陰で、肉親の情というモノがこの世に存在するのだと、理解することができました。


 グレタと本だけでは知ることができなかったモノを、御姉様が与えてくれました。

 今まで細々とグレタが与えてくれていた本が、簡単に手に入るようになりました。


 本はとても高価なので、グレタだけで用意するのは難しかったのです。

 まして魔導書などは、普通は使用人に用意できるものではありません。


 でも、御姉様なら、モンタギュー公爵家の跡継ぎ娘ですから、家の本は魔導書であろうと全て自由にできます。


 私が欲しいと言った本は、全て手に入れてくれました。

 グレタが御姉様に私が地下牢から逃げ出すために必要だと伝えた本は、あらゆる方法を使って手に入れてくれました。


 その行為が疑われないように、御姉様は好きでもない勉強をしてくれました。

 公爵家の令嬢として学ばなければいけないことが山積しているにもかかわらず、私のために、本しか友達のいない私のために勉強してくれたのです。


 その御姉様を殺されて、私がどれほど絶望し怒りに震えているかは、グレタしか理解できないでしょう。

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