つづき
いつか姉と父が同じテーブルに座っている景色を見た。あまり遠くないはずの記憶に手が届かない。
化粧をするようになって老け込んだ姉の顔を見る。頬から顎にかけてついた肉がブルドッグのように顔全体の皮を下げようとしている。今の彼女に美しさを少しも感じない。
にわとりが死んだことを母に伝えると、悲しそうな顔で返事をした。それは残念だと。メスのにわとりは弱った一匹しかいない。にわとりを育てる生活はもう終わるかもしれないと。大きな暖かい体で僕を抱きしめた。
父は何も言わなかった。
姉は卵なら買ってくればいいと言った。でも、死んじゃったのは可哀想だね、とも。
姉はかつての母を見習うように暴力的だった。姉の発する言葉の一つひとつが火傷しそうなくらい冷たく痛かった。僕は姉のことが嫌いだった。
「ねえ奏。最近学校どうー?友達増えた?」
最近の姉は僕と会話する時は必ず何かをしながら話す。
「まあまあ。美鶴は友達できた?」
「友達っていうか先輩とかとは仲良いよ。ヒナ先輩とかとはたまに遊びに行ったりとかするし」
「そうなんだー。先輩と仲良くするの面倒くさそうだね」心配しているのか馬鹿にしているのかわからない表情を浮かべながら応えた。
「まあ面倒くさいけどね…」
そのまま何かを言いたげに何も言わない。僕と会話をするのが一番面倒くさいのかもしれない。
最近の姉は、僕と向かって話さなくなった。世界の全てに嘘をついて生きているように見える。全てに正直で真面目で一生懸命で、そうやって生きるために人を傷つけることさえ全く厭わない姉はもう生きていない。僕の憧れで僕が大嫌いなもういない人。
鮮やかに彩られた美味しそうな食事。うっすらと何かがパプリカを覆い艶ができる。その何かの香りがする。母はいつからこの準備をしていただろうか。姉は手を叩き、すごーいと頑張って感情を込めようとしたコメントをする。父と姉は幸せそうな顔をして食事やそれぞれの顔を眺める。鶏肉が目に入りまたにわとりのことを考える。母が最後に大きな皿を運んできて席に着いた。お皿を運ぶくらいは手伝えばよかった。みんなが自然に手を合わせる。給食の時間に聞いた名前を知らないクラシックが世界に響き出した。聞こえるはずの音が全て聞こえなくなった。
いただきます
にわとり 怠け蟻 @tetsuie
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