にわとり
怠け蟻
はじめ
「にわにわにわにわとりがいる」
これの何が難しいんだろうとふらふらした考えを浮かべながら窓の外を眺める。外に面白いものがあるわけではないけれど黒板よりも雲を眺めていたかった。
家に帰ると暗くて濃い濡れたような色の廊下が見える。バッグを手から下ろし、今日も靴下を履いていれば廊下が滑ることを確かめる。布団を叩く音がこの家の主のものなのか他の家のものなのかわからなかったがそもそもそんなことは気にしていないということにして、靴を履き直してすぐに校庭に向かった。今日は姉が帰ってくるかもしれない。
常に喉の渇きを感じながらボールを追いかけて走り回った。その感覚が喉の渇きだと確信して初めて水道の蛇口で水を飲みたくなった。汗をかきすぎて体重が半分になったような気分だった。夕暮れのダラダラした重たい暑さが心地よかった。ふと、友達に別れを告げて走り出した。今日はまだにわとりに餌をやっていなかった。
帰り道、体が跳ねる心地よさの中でにわとりの心配をしようと努めた。
にわとりは家にいなかったことはない。これまで何度も死んで何度も生まれた。それぞれに特に違いはないから全部ただの「にわとり」。僕にとってはずっと前から同じ生き物。昔の姉はよくわからない名前をつけて呼んでいた。いつからかただ「にわとり」と呼ぶようになり世話もしなくなった。にわとりに飽きたのか、それとも僕がよくにわとりの世話をするのを見て安心したのか。
また死んでいた。昨日も一昨日も水を入れる皿が空だった気がしてきた。ぐったりと眠るにわとりの体がぬるい。にわとりを弔うために土を掘って死んだにわとりを優しく入れた。土を被せてから枯れて落ちた枝を刺しておいた。手を叩いて何かを祈ろうとして何を祈ればいいのかわからなくなった。にわとりのことを考えることにした。
にわとりが死んでいることに気づかなかった家族たちは今、明るくて冷たい部屋でテレビを見ているかご飯の準備をしているんだろう。気怠さにからかわれながら蛇口を捻って手についた土を落とした。
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