第27話

サエは手帳のコーナーに立っていて、キャラクターイラストが入ったものを眺めている。



表紙はふわふわのファーが付けられていて、キャラクターの小さなぬいぐるみもぶら下がっている。



ただの手帳と言っても1000円以上はしそうだ。



そんな高価なものを買うんだろうかと思って横目で見ていると、サエの動きがおかしくなった。



手帳を持ったままレジから遠い棚の影に隠れたのだ。



咄嗟にスマホを取り出してその後を追いかけた。



サエはチラチラとレジ内にいる店員へ視線を向けて気にしている様子だ。



その時、店内のお客さんがレジに並んだ。



店員はレジに集中して店内の様子を確認することができなくなる。



そのスキをついたようにサエは手帳をカバンの中に入れたのだ。



ユウナはその様子をスマホで撮影した。



シャッター音は店内音楽によってかき消され、サエはそのまま足速に店内から逃げ去っていったのだった。


☆☆☆


あの電話の内容は本当だったんだ!



家に戻ってからもユウナの興奮状態は覚めなかった。



何度もスマホ内の写真を確認しては笑い声を漏らす。



これで自分の噂はみんなが信じてくれる。



証拠を撮影したからこれをキミのときと同じように貼り付けて回れば、ユウナが噂を流す必要だってないのだ。



ユウナは写真をパソコンに取り込むとそれを何枚も何枚も印刷した。



そしてその間今日の宿題をすべて終わらせてしまったのだった。


☆☆☆


「お前は少し我慢が足りないんじゃないか」



それはその日の夕飯での出来事だった。



お腹はペコペコだし大好物のカレーを目の前にして喜んでいたときの、父親からの一言だった。



父親は1人だけビールを飲んで枝豆を口に放り込んでいる。



「我慢?」



ユウナはスプーンを持った手を止めて聞いた。



「今日学校に電話して、テスト結果を聞いたのよ」



そう言ったのは母親だった。



ユウナは驚いて思わずスプーンを落としてしまうところだった。



「テスト結果ってなんの?」



「とぼけないで。数学のテストよ」



そう言われてようやく思い出した。



一週間くらい前に数学のテストが戻ってきて、点数は散々な8点だったのだ。



しかもその答案用紙は学校のトイレに捨ててきてしまった。



母親はいつまでもテストを見せないことにしびれを切らして、学校にまで電話してしまったみたいだ。



ユウナはすっかり食欲をなくして母親をにらみつける。



「なんで学校に連絡までするの!?」



「ユウナがちゃんと答案用紙を見せないからでしょう? 数学のテストはどこへやったの?」



「だからって学校にまで連絡しないでよ!」



本当に信じられない!



親がそんなことで学校に電話したなんてバレたら、またクラス内でなにを言われるかわからない。



きっと今までよりももっとひどいイジメにあうだろう。



「そんな言い方はないだろう? どれだけ悪い点数でもちゃんとお母さんとお父さんに見せなさい」



父親の言葉にユウナは下唇を噛み締めてうつむいた。



父親は母親ほど勉強についてうるさくは言わない。



けれど嘘をついたり、黙っていたりすることに対してはすごく怒る。



小学校の頃どうでもいいような小さな嘘をついてとんでもなく怒られた経験を思い出して、



ユウナはしぶしぶ「ごめんなさい」と、つぶやくように言った。



「それで、テストはどこにやったんだ?」



「学校のトイレに捨ててきた」



その返事に両親とも呆れた表情を浮かべて、ため息を吐き出した。

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