第26話

☆☆☆


2度目に真実の電話を見つけるのは以外にも簡単なことだった。



夜遅くなてからこっそり家を抜け出して最終のバスで山の麓まで来た。



あとはこの前の休日と同じように地図と方位磁石を片手に、電話ボックスを探した。



都市伝説にありがちな1度たどり着いた後は二度とたどり着けないとか、電話ボックスそのものが移動してしまっているとか、そういうこともなかった。



拍子抜けしてしまうくらいあっさりそこにたどり着いて、ユウナは緊張が解けていくのを感じた。



周囲はとっくに真っ暗で、月明かりすら届かない。



遠くから狼の鳴き声が聞こえてきて、近くでは小動物が逃げていく足音もする。



だけどユウナは気にならなかった。



この電話を使えば自分の人生はすべて上手くいく。



そんな風に考えるようになっていた。



元に今日だって面白いくらいに宿題が解けたのだ。



この真実の電話のおかげで、自分はようやく本来の力を発揮できるようになった。



ユウナは電話ボックスのドアに手をかける。



するとそれは前回同様にすぐに開いてくれた。



中に入り、お金を入れずに受話器を上げる。



「サエの秘密が知りたい」



自分の声がボックスの中に反響する。



それはトンネルの中にいるときのように響いたが、やっぱり気にはならなかった。



しばらく待っていると受話器の向こうから低くくぐもり、そして歪んだ声が聞こえてきた。



『サエは万引の常習犯だ』



その言葉にユウナは息を飲んで目を見開いた。



サエが万引き犯?



それは信じられない事実だった。



いつも勉強ばかりしていて成績が優秀なサエが万引なんて……!



キミのときとは違う、本当に笑えない過去にしばらく呆然としてその場に立ち尽くしてしまった。



気がつけば受話器は元通りかけられていて、ユウナはヨロヨロとこけそうになりながらボックスの外へ出た。



すごい真実を知ってしまった。



どうすればいいんだろう。



帰りの道を歩きながら鼓動が早くなる。



この秘密をバラしたら、サエは学校にも来られなくなってしまうかもしれない。



それところか、受験に響いてくるかも。



そう考えると秘密を知ってしまったことを後悔しはじめていた。



イジメっ子のサエのために悩むくらいなら、知らなければよかったのかもしれない。



こっそり部屋に戻ってベッドに潜り込んでもなかなか眠りにつくこともできない。



この噂を流して、本当にみんなが信じてくれるかどうかもわからない。



なにせサエは優等生で、先生からも気に入られている。



いくら本当のことを知ってもそれを信じてもらえなければ意味がない。



ユウナはモヤモヤとした気分のまま眠れず、そのまま朝が来ていたのだった。


☆☆☆


翌日学校へ行くとキミは休んでいた。



昨日あんなことがあったから、怖くて学校に来られなくなったんじゃないかとクラスメートたちは噂をしている。



そうなのかもしれない。



だけどキミが自分にしてきたことはもっともっとひどいことだ。



それなのにあんな張り紙ひとつで学校に来なくなるキミが恨めしかった。



サエがひとりだととても静かだった。



なにかを仕掛けてくるわけでもないし、休憩時間までずっと勉強をしている。



いつもはキミと2人だから弱いものイジメをしているのかもしれない。



そのままユウナが拍子抜けするほどあっさりと学校の授業は終わってしまった。



クラスメートたちも今日はユウナに関わらず、普通に授業を受けていた。



2人組が1人になっただけでこれほどまで景色が変わってしまうのかと、ユウナはぼんやり考えながら校舎を出た。



でも問題はまだ終わっていない。



キミは明日にはまた学校に来始めるだろう。



そうすれば自分へのイジメもきっと再開される。



そのときに対応できるように、こちらもしっかり準備しておかないといけない。



校門を出て帰路を歩いていると前方にサエの姿を見つけた。



一瞬無視してそのまま帰ってしまおうかと思ったが、昨日聞いた真実の内容を思い出して思いとどまった。



サエが万引しているというのが本当なら、もしかしたらその場面を目撃することができるかもしれない。



証拠を取ることができればみんな信用してくれる。



そう考えてこっそりとサエの後を追いかけた。



サエはまっすぐ帰るのかと思っていたが、途中で雑貨屋に立ち寄ったのでユウナもその後に続いた。



そこは文房具が中心に置いてある雑貨店でユウナにとってもお気に入りのお店だった。



今でも何人かの学生がノートや鉛筆を眺めている。



なにを買いに来たんだろう?



そう思いながらサエにバレないよう、顔を伏せつつ確認する。

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