第22話
☆☆☆
先生の言葉が信じられなくてしばらくその場に立ち尽くしてしまった。
先生は本当になにも気がついていないんだろうか。
だから今までなにもしてくれなかったんだろうか。
「どうした? もう行っていいぞ?」
そう言われるまでユウナは動くことができなかったのだった。
☆☆☆
家に戻ってきたユウナはしばらくぼんやりとベッドに寝転んでいたが、気を取り直すようにスマホを取り出した。
学校にも持っていっているけれど、ワイハイ環境がないので緊急時以外は使わないようにしているのだ。
スマホがワイハイにつながっているのを確認してから、トイレで聞いた都市伝説を打ち込んでいく。
《真実の電話 山の中 赤い公衆電話》と、いくつかのワードをあわせて検索してみると以外にもすぐに何件かのサイトがヒットした。
一番上に出てきたサイトにアクセスしてみると、大きな見出して《真実の公衆電話》と書かれていて、物語のようにそれが語られていた。
主人公は冴えないサラリーマンで、毎日代わり映えのしない日常にうんざりしていた。
それでもこの日主人公は気分良く仕事をこなしていたのは、仕事終わりに合コンの予定が入っているからだった。
今日の相手は大手企業に務めている受付嬢で、写真を見せてもらう限りみんなとても綺麗でかわいい子たちだった。
受付業務ということで愛想もよく、笑顔も素敵なのだそうだ。
今日ここで彼女をつくることができれば自分の人生はもっと華やかになる。
ただ仕事をして帰って寝るだけの消費されていく毎日の中に楽しみが増えていくのを想像して、男はニヤついた笑みを浮かべながら仕事をした。
気分よく仕事をしていた男はいつもよりも早く自分の仕事を終えることができた。
時刻を確認するとちょうど5時になったところだ。
よし、今日は一度帰宅してシャワーでも浴びてから合コンへ行こう。
汗臭い男が来たと思われたら嫌だしな。
その時間は十分にあった。
男はパソコンを閉じてカバンを持ってそそくさと席を立つ。
鼻歌まじりに部屋を出ようとした時、一番奥のデスクに座っていた上司に呼び止められた。
男は足を止めて振り返る。
上司のメガネが蛍光灯によってキラリと光った瞬間、嫌な予感が胸をよぎった。
それでもそのまま無視して帰ることはできなくて男はしぶしぶ上司のデスクの前まで移動した。
そこで言い渡されたのは追加の仕事だった。
男は『じゃあ、これは明日やります』と笑顔で受け取ったものの、上司は許してくれなかった。
『1人だけ早く帰るつもりか』
威圧的な態度でそう言ったのだ。
確かに会社にはまだたくさんの社員たちが残っている。
それなのに自分1人が帰宅するのは気が引ける。
しかし、自分の仕事はすべて終わったし、定時にもなっているのだ。
これで帰らせてもらえないなんておかしな話だ。
男は用事があるから今日はもう帰らせてほしいと上司に申し出た。
しかし、恋人もいない結婚もしていない男に上司は冷たい視線を送るばかりだった。
1人身だと身軽なのだと、勝手に思い込まれているのだ。
こちらがどんな予定を入れていようが変更できるものだと、勝手に思っている。
結局男は仕事を断ることができずにしばらく会社に残って仕事をすることになってしまった。
上司から受け取った仕事はかなり時間のかかる面倒なもので、1人、また1人と席を立って帰っていく。
気がつけば仕事をまかせてきた上司の姿もなく、男は会社で1人になっていたのだ。
『くそっ!』
トイレに立ち毒づく男。
すでに合コンは始まっている時間なのに男にはなんの連絡も入ってきていない。
つまりそれは、男抜きでうまくいっているということだった。
もう仕事なんてしている気分じゃなくなってデスクに戻ってからもずっとスマホをいじっていた。
最初は最近気に入っていたパズルゲームで遊び、次に動画を見てわざとらしく大きな声を上げて笑い、最後に都市伝説のページにたどり着いた。
『真実の電話ぁ?』
男はその都市伝説を見てうさんくさそうに笑う。
そこに書かれていた都市伝説は、山の中にある公衆電話を使えば、相手の過去や本心を見ることができるというものだった。
普段の男ならこんな都市伝説は信用しなかった。
子供だましだと笑って、すぐにサイトも閉じてしまっただろう。
けれど今日は少し違った。
仕事を押し付けられて合コンにも行けなかったことで気分は尖っていて、あの上司の過去を覗き見することができるかもしれないと考えたのだ。
サイトの記事をしっかりと読み込んで行くと、公衆電話のある場所の地図まで出てきた。
それを確認した男はもう仕事なんてしていられないと、スマホを握りしめて部屋を出たのだった。
その後、男は真実の電話を見つけてにくい上司の過去を知り、それを会社内で暴露して復讐するという話になっていた。
最後に公衆電話まで行き着くための地図まで載っていて、ユウナは目を見開いた。
「これ、本物の地図?」
眉を寄せてつぶやく。
地図は山の中を指しているようだけれど、これが本当に正しい地図なのかどうかは、実際に行ってみないとわからない。
しばらく地図を見つめて悩んでいたユウナだけれど、決意したようにその画面をスクリーンショットしたのだった。
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