第20話
けれどユウナはさっきのクイズの解答が気になって仕方がなかった。
「わかった。わかったから、リモコンを返して!」
母親からリモコンを奪い取ってテレビをつける。
幸いまだ解答の解説が続いていた。
ユウナはホッとして視線をテレビへ向けたまま手伝いを始めた。
人数分のお箸を取り出して並べて、お茶碗も並べる。
このくらいのこと、お母さんがしてくれればいいのに。
そんな風に思いながら片手間に手伝っていると、持っていたお茶碗を落としたしまった。
「あっ」
と口走ってももう遅い。
お父さんの茶碗が音を立てて落下してしまう。
「テレビを見ながら手伝うからそんなことになるのよ」
シチューの味見をしていた母親が呆れた声を出す。
「割れなかったからいいじゃん」
お父さんの茶碗を拾い上げてテーブルに置く。
「そういう問題じゃないでしょ。そんなんじゃいつかきっと困ることになるわよ。なにかひとつくらい本気でやってみないと」
「やってるよ。本気でテレビを見てたのにそれを邪魔してきたのはお母さんでしょう?」
ユウナはそう言い返して、再びテレビの前に座ったのだった。
☆☆☆
翌日、日直だったユウナはいつもより30分も早く家を出た。
昨日は結局夜中までテレビを見ていて、すっかり寝不足だ。
朝起きたときに母親からは『その集中力を別のところに使ってくれたらいいのに』と、愚痴られてしまった。
まだ誰もない学校の校門を抜けると体育館から生徒たちの声が聞こえてき、ユウナはふらふらとそちらへ足を進めた。
こんなに早い時間から何をしているんだろう?
開いている窓から中の様子を覗いてみると、バレー部の生徒たちが練習をしている姿が見えた。
こんな早い時間からもう練習してるんだ。
そう思い、そっと窓から離れる。
グラウンドからも声が聞こえると思っていると、男子と女子のサッカー部員たちの姿が見えた。
その中にはキミの姿もあり、まだ早朝だというのにすでに汗だくになっているのがわかった。
「うぇ、キミって汚い」
べぇっと舌を出して校舎へと向かう。
いくら運動が好きでもこんなに朝早くからなんてできない。
キミたちの気が知れない。
B組の教室で日誌を読み返していると、思い出すのは嫌な記憶ばかりだ。
サエにテストの点数をバカにされた日。
キミに運動音痴をバカにされた日。
他にもたくさんある。
クラスメートたちに笑われた日。
担任の先生から呆れたため息をつかれた日。
もちろん日誌にはそんなことは書かれていないけれど、ユウナの記憶はとても鮮明に残っていた。
ユウナは途中で日誌を読み返すことをやめて、まっさらなページを開いた。
そこに今日の日付と自分の名前、時間割を記入する。
今日1日はこれからはじまるというのに、ユウナの心は重たくてこの真っ白なページと同じようにはいかなかったのだった。
☆☆☆
日誌を書き終えた後は好きなマンガを読んで授業が始まるのを待った。
途中でキミが教室に入ってきたけれど、汗臭くて顔をしかめてしまった。
いくら汗をタオルで吹いてみても練習後のニオイは簡単には消えない。
そこまでしてサッカーをする理由がユウナにはわからなかった。
「キミおはよう。今日も朝練?」
「おはようサエ。そうだよ」
マンガに視線を落としてみても、2人の会話がどうしても耳に入ってきてしまう。
いつ自分の話題が出てくるか緊張してしまうのだ。
しかし想像とは違って2人は普段よりおとなしかった。
登校してきたサエが静かに勉強を始めたのだ。
サエは休憩時間中にはよくこうして1人で黙々と勉強をしている。
そんなに勉強をして将来なにになるつもりなのか、ユウナには検討もつかないけれど。
とにかく今はなにも言われなさそうだと安心して再びマンガに視線を落としたのだった。
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