第18話

☆☆☆


翌日、結局ほとんど勉強しないままユウナは学校へ来ていた。



どれだけ勉強ができなくても、スポーツができなくても別に困ることなんてない。



誰にも迷惑はかけていないし、なんとなくなるようになってきているし。



ユウナは1人でぼんやりと体操着に着替えていた。



体育が好きな子たちはいち早く着替えを終えて、休憩時間中にすでにボールを持って遊んでいる。



その様子を見ながらのろのろと体育館へと足を進めた。



本当は理由を付けて休みたかったけれど毎回腹痛とか、頭痛を理由にしているため


最近では体育の先生に怪しまれるようになっていた。



他の授業はちゃんと受けているのに、どうして体育のときだけ体調が悪くなるのかと、注意をされたばかりだった。



だから今度仮病を使うときはもう少しほとぼりが冷めてからでないといけないのだ。



体育館の中に最後に入ってきたのはユウナで、先生はすでにみんなを集合させて待っていた。



「遅いですよ」



「……はい」



まだ授業開始の合図も鳴っていないのにと、ユウナは仏頂面になる。



みんなからは含み笑いを声が漏れて聞こえてきた。



「今日はバレーボールの練習をします。2人1組になってトスの練習から初めてください」



先生が説明を終える頃にはすでに2人組が作られていて、みんなバラバラに移動を開始していた。



1人取り残されたユウナは一瞬これで見学することができると心を踊らせた。



けれど、そんな簡単にさぼることは許されなかった。



「ユウナ。あんたは私達と3人組で練習するから」



そう声を書けてきたのはキミだったのだ。



ユウナの顔からサッと血の気が引いていく。



キミと一緒にいるのは当然サエで、この2人に挟まれたらどんなことをされるかわからないと、すでに理解していた。



ユウナは左右に首を振って「ううん。今日は私見学してるからいいよ」と早口に言ってその場から逃げようと背を向ける。



しかしキミが肩を掴んで引き止めてきた。



「大丈夫だから、3人でやろう」



キミの指は痛いくらいに肩に食い込んでくる。



ここで断ったら今度は教室内でなにをされるかわからない。



ユウナはゴクリと唾を飲み込んで2人に向き直った。



ここは素直に従った方が良さそうだ。



キミとサエとユウナの3人で三角になるように立ち、ボールをトスしていく。



最初の頃は先生が近くにいたから2人共ユウナでも取りやすいボールを投げてくれた。



けれど途中から先生が他の子たちを見にくと、途端に豹変しはじめたのだ。



「それ!」



キミが声をあげてボールを叩く。



それはトスではなくサーブだ。



しかもとびきり力が込められているそれはユウナの腹部に直撃した。



ユウナはうめき声をあげてその場にうずくまる。



「あ、ごめーん、大丈夫だった?」



キミのわざとらしい声にサエが笑う。



今度はサエがボールを持って、うずくまっているユウナの背中めがけてぶつけていた。



「痛っ」



思わず声が漏れる。



痛みと恐怖で涙が滲んできた。



「ちょっと大げさなんじゃない? 早く立ってよ、トスの練習できないじゃん」



キミが怒ったような声でそう言うので、ユウナは少し無理をして立ち上がった。



まだお腹も背中もジンジンしていて熱を持っているのがわかる。



それでも2人は容赦なかった。



次から次へとユウナへ向けてボールを放つ。



ユウナは必死でボールを返そうと手を伸ばすけれど、2人のちからが強くて腕や足にぶつかるばかりだ。



「ユウナって本当になにもできないよね」



ボールを打つことに飽きてきたのかキミが呆れた声でそう言った。



「本当だよね。勉強もできない運動もできない。じゃあなにができるの?」



サエがニヤついた笑みを浮かべて聞いてくる。



ユウナは悔しい気持ちを持っていたが、それでもなにも言えずにうつむいてしまう。



早く体育の授業が終わればいいのに。



先生が来てくれればいいのにと願うばかりだ。



地獄のような体育の授業が終わって着替えをしていると、あちこちが青あざになっていることに気がついた。



腕は少し上げただけで痛くて顔をしかめてしまう。



自分をこんな風にした2人はさっさと着替えを終えて教室に戻ってしまったみたいだ。



ユウナはムッと唇を引き結んで1人で保健室へ向かった。



保健室の女性の先生は優しくて、まるで本当のお姉さんのようでユウナは大好きだった。



「あら、また来たの? 今日はなに?」



教室にいたくない時、体育の授業をサボりたいときによく来ているのですっかり顔なじみだ。



きっと保健の先生もユウナの嘘を見抜いていると思う。



それでも保健室から叩き出すこともなく、ベッドを貸してくれるのだ。



「腕が痛くて」



そう言いながらなれた様子で丸椅子に座り、痛い方の腕を見せた。



「真っ青じゃない、どうしたの?」



ユウナの腕を見てさすがに驚いた様子だ。



慌てて席を立ち、棚から湿布を取り出して戻ってくる。



「体育の授業で、ちょっと」



ユウナは言葉を濁して説明した。



この先生になら悩みを相談できるかもしれないという思いはあるものの、まだそこまでの勇気が出なかった。



「体育ではなにをしたの?」



「バレーのトスの練習です」



「そう。きっとものすごく力の強い子がいたのね?」



頷いていると、腕に湿布を貼られてヒヤリと冷たかった。



だけどとても気持ちがいい。



「今日1日は重たい物とかもたない方がいいわね。担任の先生には伝えておくから」



「はい」



これでもう終わりかとガッカリしてしまう。



どうせなら1時間くらいベッドで横になっていたかった。

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