第14話

でも、マヤちゃんが式に出ることはなかった。



卒業式当日の朝、マヤちゃんは通学路の途中で暴走車に轢かれてしまったのだ。



そのまま緊急搬送されたマヤちゃんは意識不明の重体で、一時期命の危険があったそうだ。



そこから回復したものの、意識は戻らなかった。



ずっと病院に入院させているのが嫌で、今はこうして家に連れて戻り、毎日病院の先生に自宅まで来てもらっているらしい。


☆☆☆


すべて話を聞き終えてユキコもユリも黙り込んでしまった。



途中でマヤちゃんとの関係を投げ出してしまったことを、今はひどく後悔している。



マヤちゃんがお金持ちの家に産まれてきたことは、マヤちゃんのせいじゃなかったのに……。



「これを見て」



そう言われて視線を向けると、母親が本棚へと近づいて行きアルバムを一枚取り出した。



マヤちゃんが写っている写真だろうか?



そう思って2人で近づいて見ると、そこには風景写真が沢山貼られていた。



「これはマヤが撮った写真なのよ。あの子、写真を取るのが好きだったの」



それは初耳だった。



マヤちゃんとは本の話しばかりをしてきたから、他の趣味については聞いたことがなかった。



「でも、今ではそれもできなくなってしまったけれどね」



母親は写真を愛しそうに撫でながら呟く。



その仕草にユキコたちの胸は今にも張り裂けてしまいそうだった。



もしも自分たちがマヤちゃんと一緒にいてあげていれば、交通事故にだってあわなかったかもしれない。



そんな気持ちになっていた。



そしてふと本棚へ視線を向けた時、見覚えのある表紙の本が目に入った。



「あの本って、マヤちゃんがお気に入りだった本ですよね?」



ユキコが指差して言う。



「えぇ。この本は友達に貸してあげるんだって言って、卒業式の日に持っていったものなの。結局その友達にこの本を貸してあげることはできなかったけれど」



それ、私だ……!



ユキコはまた両手で口を覆って泣きそうになるのをこらえた。



自分たちはマヤちゃんから離れてしまったのに、マヤちゃんはそれでも自分たちのことを友達だと思ってくれていて、約束も忘れていなかったなんて!



「ユキコ、どうする?」



ユリがユキコの腕を掴む。



このままでいいわけがない。



マヤちゃんにちゃんと謝らないといけない。



だけどマヤちゃんは意識がない状態だ。



自分たちができることはなにかないだろうか?



「あの、明日もここに来てもいいですか!?」



考えるよりも先にそう聞いていた。



母親は驚いたようにユキコを見つめる。



「それで、あの、お手伝いできることがあれば、やらせてください」



ユキコはそう言うと頭を下げた。



ユリも同じように頭を下げる。



「そんな、こうして来てくれただけで十分よ?」



でもそれじゃ自分が納得できない。



2人は同時に強く首を振った。



「なんでもいいんです。マヤちゃんの役に立ちたいんです!」



頭を下げたままユリはポタリと涙を流した。



それを見ていた母親はなにかを決心したように「わかったわ。お願いすることはたくさんあるんだから、覚悟しておいてね?」と、言ったのだった。

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