第15話
それから2人は本当に毎日マヤちゃんの家に行くようになった。
枕元に座ってマヤちゃんの大好きな小説を読む。
時々マヤちゃんの母親に教わった手足のマッサージもしてあげた。
マヤちゃんの肌はとても白く、筋力の落ちた体は小学生低学年のように細い。
その体が少しでも同年代の子供たちに近づくように、2人とも懸命になった。
気がついたら2人が汗びっしょりになるくらいマッサージを続けていたこともある。
「こんにちは」
日曜日には昼ご飯を食べたらすぐに2人は合流してマヤちゃんの家にやってきた。
「こんなに早くありがとうね。あなたたちも少しは遊びに行かなきゃいけないのに」
「大丈夫です」
ユキコは答えながらなれた様子で玄関を上がる。
「今日はマヤちゃんと3人で写真を撮らせてもらいたいんですけど、いいですか?」
マヤちゃんの部屋へ向かいながらそう聞くと、母親は快く承諾してくれた。
寝たきりでいても3人での思い出が欲しいと思ったのだ。
そしてマヤちゃんが起きた時にその写真を見せてあげるんだ。
こうして毎日顔を見に来ていたよと言えば、きっと喜んでくれる。
ユキコはカメラの入ったカバンを部屋の隅において、昨日途中まで読んでいた本を手にマヤちゃんのベッドの横に座った。
ユキコが本を読み始めるとユキはマヤちゃんの手足をマッサージしはじめる。
2人で別々のことをすることで少ない時間でもたくさんのことをしてあげられると気がついたのだ。
そうして1時間ほど経過したとき、ユキコは本を閉じてカバンからカメラを取り出した。
そのカメラを見た瞬間ユリの顔色が変わる。
ユキコが持ってきたのはあのポラロイドカメラだったのだ。
「それ、ほんとうに使うの?」
「うん。マヤちゃんに会ってから変なことはなにも起きなくなったから、どういうことなのか確認したいの」
マヤちゃんと一緒に撮影することでなにかがわかるかもしれない。
そう思って持ってきたものだった。
「ユリはベッドの奥側で、膝立ちになってね」
指示を出して3人が映るように自分もベッドの隣で身を屈めた。
右手にカメラを持って腕を伸ばして撮影しようとしたとき、マヤちゃんの母親がお茶を持って部屋に入ってきた。
そしてカメラを見た瞬間そのお茶を落としてしまったのだ。
ガチャンッ! と音がしてポットとカップが落下する。
ユキコはハッとして駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
高級な絨毯に紅茶のシミがついてしまうかもしれないと慌てていると、母親の視線がポラロイドカメラに向いていることに気がついた。
「そのカメラ……」
「あ、これ。中古ショップで買ったんです」
母親が手を伸ばしてきたので、ユキコはカメラを手渡した。
するとなにかを確認するように色々な角度からカメラを確認しはじめる。
その様子はとても真剣で、声をかけることも躊躇するくらいだった。
しばらくカメラを確認したあと、それを大切そうに胸に抱きかかえた。
「あの……?」
「ごめんなさいね。これを見て」
目に涙を浮かべながら、カメラの裏側を見せてきた。
そこにはマジックでMAYAと書かれている。
それを見た瞬間ユキコとユリは同時に息を呑んでいた。
まさかこのカメラって……。
「交通事故にあったあの日も、マヤはこのカメラを持っていっていたの。だけど事故にあってバタバタしている間にどこかに行ってしまって、ずっと探していたのよ」
「そうだったんですか……」
呟き、ようやくすべての謎が解けたと感じた。
最初からこのカメラにはマヤちゃんの気持ちが宿っていた。
それを手にしたのがユキコだったから、マヤちゃんは姿を表したのだ。
あの洋館はなんの関係もなかった。
ユキコはカメラを母親から受け取ると、マヤちゃんの枕元にそっと置いた。
「これ返すね。それから、途中からマヤちゃんのこと無視するようなことをして、本当にごめんね」
「私もごめん! もう、絶対にあんなことしないから」
ユリもベッドに近づいてきて、マヤちゃんの手を握りしめて言った。
その瞬間少しだけマヤちゃんの口元が動いて微笑んだ気がした。
ユキコとユリはそれを見て目を見交わせる。
マヤちゃんはきっともうすぐ目を覚ます。
そうしたら今までできなかったことを一緒にしよう。
たくさん遊んで、たくさん写真を撮って、読書もしよう。
そう、心に決めたのだった。
☆☆☆
こんにちは、闇夜ヨルです。
さぁ、今回のお話は少しいいお話でしたね。
みなさまも人に意地悪をして後悔したことがあるかもしれません。
やってしまったことは元には戻せないけど、これから先その相手と仲良くすることはできるはずです。
勇気を出して、一歩前へ踏み出してみれば違う未来が待っているかもしれませんね。
それでは、2本目も恐怖体験を覗いて見ましょう。
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