第8話
4時間目の授業が終わるチャイムを聞いてから、2人は女子トイレを出た。
ユリはどうにか泣き止んでいたけれど、目が赤く充血している。
C組の教室へ戻った時なんとなく嫌な雰囲気を覚えたのはユキコだった。
ユキコはドアの前に立って教室内を見回してみた。
しかし、変わったところは特になくて気のせいだったのかと首をかしげる。
そして自分の席へ向かったときだった。
机の上にあのカメラが置かれていたのだ。
今朝確かに公園で捨ててきたあのカメラ。
「なんで……」
声が震え、そして掠れてしまってうまく出なかった。
隣でユリが両手を口に当てて驚愕している。
「誰がこんなことしたの!?」
恐怖を振り払おうとしたら、大きな声が出てしまった。
怒鳴るような声に驚いたクラスメートたちがこちらへ視線を向ける。
「どうしたの?」
仲のいいクラスメートが心配して聞いてくる。
「このカメラ、誰が私の机に置いたの!?」
しかし、その質問に答える生徒はいなかった。
みんなが一様に首を傾げている。
「誰も知らないみただよ? それ誰のカメラなの?」
そう聞かれてユキコは黙り込んでしまった。
これは私のカメラだ。
でも捨ててきた。
そう言えばきっと『だったら親切な人が届けてくれたんじゃない? まだ使えそうだし』と言われるに決まっている。
そんなんじゃないと言っても信じてもらるはずがない。
「大丈夫?」
ほとんど食べることができなかった給食を終えて、ユリが心配そうに聞いてきた。
あのカメラはカバンの中にしまってある。
「本当に呪いなのかな」
ポツリと呟くと、ユリがまた泣きそうな顔になった。
「そうなのかもしれない。とにかくあのカメラをどうにかしないと」
「捨てても戻ってくるのにどうすればいいの?」
「それは……」
ユリはそこまで言って口ごもってしまった。
どうすればいいのか検討もつかない。
それにこのままでいるとどうなってしまうのかもわからなかった。
今の所カメラが戻ってきたり、少女の姿が見えたりするだけで済んでいるけれど、それで終わるとは思えない。
いつ自分の身が危険にさらされるかわからないのだ。
そう思うと恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。
「そうだ! 捨てても戻ってくるなら誰かに持っていてもらったらどうかな?」
思いついたようにユリが言う。
「持っていてもらうって、一体誰に?」
こんな気味の悪いカメラ誰も持っていてはくれないだろう。
「落とし物として先生に預けるのはどう? 先生は学校内での落としものを鍵付きのロッカーに保管しているよね? そこならもう戻ってくることはないんじゃない?」
ユリの言葉にユキコの顔色が少しだけ良くなった。
確かにカギつきのロッカーに保管しておいてもらえれば、カメラが戻ってくることもないはずだ。
ユキコはさっそく先生に届けるためにカメラを握りしめて、職員室へと向かったのだった。
☆☆☆
これでもう大丈夫なはずだ。
カメラは先生に預けたし、写真は塩と一緒に保管してある。
本当はもっと適した方法があるかもしれないから、それもちゃんと調べておこう。
ユキコは1人で帰宅中も気を抜かないように注意しながら帰路を歩いた。
いつ、どこにあの白い服の少女がいるかわからない。
あの電柱の影に、あの空き地の壁の向こうにいるかもしれないのだ。
警戒を緩めないまま自宅まで戻ってきたユキコはようやく大きく息を吐き出した。
緊張しすぎてつい呼吸をすることも忘れていたくらいなのだ。
「あぁ、苦しかった」
そう呟きつつ玄関を鍵を開けて家に入る。
両親はまだ仕事中で誰も戻ってきていない。
1人で家にいると変なことばかり考えてしまいそうなので、すぐにテレビを付けてリビングで宿題をすることにした。
宿題に集中しているとあっという間に時間が過ぎていって、気がつくと炊飯器のスイッチを入れないといけない時間になっていた。
ご飯を炊いて洗濯物を取り込むために2階のベランダへ向かったとき、丁度母親が帰ってくる音がした。
ベランダから駐車場を除くと白い系の車から母親が下りてくるところだった。
「ユキコ、荷物が届いてるわよ」
玄関を開ける音とほぼ同時にそう言われ、ユキコは慌てて階段を下りていった。
「荷物?」
「えぇ。ちょうど宅配屋さんが来てたのよ」
そう言いながら小ぶりが段ボール箱を手渡されてユキコは首を傾げた。
ダンボールには直接マジックでユキコの住所と名前が書かれていて、相手の名前は書かれていない。
荷物を注文した覚えはないけど、一体なにが入っているんだろう?
疑問を感じつつ、自室へ戻ってガムテープを引きはがす。
ダンボールの箱を開けた次の瞬間、悲鳴がほとばしっていた。
その悲鳴が自分のものだと気がつくまでにしばらく時間が必要だったし、混乱したためテーブルに置いたダンボール箱を落としてしまっていた。
中に入っていたカメラが落下の拍子にシャッターを押す。
カシャッカシャッ!
立て続けに聞こえてきたシャッター音にユキコは部屋の隅まで走って身を屈めた。
なんで、どうしてカメラがここに!?
落とし物として届けたカメラはたしかに鍵付きのロッカーに入れられた。
それをユキコもユリも見ているのだ。
そもそも、送り主の名前が書かれていない荷物が届くなんておかしい!
そろそろとカメラに近づいて出てきた写真を確認すると、驚愕している自分の顔が映っていた。
そしてその後には白い服を着た少女の姿が……。
ユキコは両手で口を押さえて悲鳴を押し殺し、勢いよく後を振り向いた。
そこには白い壁があるだけで誰の姿もない。
「ユキコ大きな声をあげてどうしたの?」
1階から母親の心配そうな声が聞こえてきても、ユキコは返事をすることができなかったのだった。
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