第7話

きっと今日は回収日じゃなかったんだ。



それなのに私がゴミ捨て場に出してしまって、それを見ていた人が持ってきたに違いない。



現実的に考えるとそうとしか思えなくて、ようやく気持ちが落ち着いてきた。



それにしても、回収日を間違えているのならひとことそう言ってくれればいいのに。



誰だかわからない近所の住人に腹を立てながらカメラを手に取る。



自分の部屋に置いておこうと思ったが、ここでぼんやり立ち尽くしてしまったのでそれほど時間は残されていなかった。



仕方ない。



途中の公園のゴミ箱に捨てていこう。



あそこなら回収日なんてないはずだ。



そう決めて、ユキコは早足で学校へ向かったのだった。


☆☆☆


「ユリ、聞いてよぉ」



どうにか遅刻せずにC組に到着したユキコはさっそく教室内にユリの姿を見つけて声をかけた。



「どうしたの?」



「今朝家から出たら、あのカメラが玄関先に置いてあったの」



憤慨して言うユキコにユリはサッと青ざめた。



「それって捨てたはずのカメラが戻ってきたってこと?」



「そうだけど、でもたぶん近所の人の仕業だよ、今日が回収日じゃないからって持ってきたんだと思う」



「本当に?」



「だって、それしか考えられないじゃん」



ユキコの言葉にユリは曖昧に頷いた。



本当にそうだろうかと思っても、口には出せない。



「腹がたったから公園のゴミ箱に捨ててきちゃった」



「え、また捨てたの!?」



「うん。だって捨てようって決めたじゃん」



「そうだけど……」



うつむいたユリはそれ以上なにも言わなかったので、話題はそこで途絶えたのだった。


☆☆☆


ユキコたちC組は4時間目が体育の授業になっていた。



給食前に体育の授業を受けると食欲が落ちてしまうからあまり好きではないのだけれど、ユリと2人でペアを組んでのバドミントンは楽しかった。



「運動した後ってお腹減るよねぇ」



「え、そうかなぁ? 私食べられなくなるけど」



「嘘!? あ、でも確かに持久走とかの後だとご飯が入らなくなるかも」



そんな会話をしながらダラダラとラケットを振る。



羽に当たろうがあたらまいが、あまり関係がなかった。



時々先生に注意されるけれどみんな似たようなものだ。



と、強い風が吹いてユリが打ち返した羽が大きく起動をそれた。



羽はグングンと飛ばされてグラウンドの端の方に落下する。



「あーっ」



ユキコは大きな口を開けて羽の起動を視線で追いかけ、ため息を吐き出した。



あれを取りに行くのはかなり面倒だ。



「ごめんごめん。一緒に取りに行こうか」



さすがにユリも悪いと持ったようで2人で羽を拾いに行くことになった。



「いきなりあんな風が吹くなんてないよねぇ」



ブツブツと文句を言いながらフェンスの近くに落ちた羽を拾う。



そしてもとの場所へ戻ろうとした時強い視線を感じてユキコは立ち止まった。



周囲を確認してみてもバドミントンをしているC組のクラスと、50メートル走を記録している他のクラスの生徒がいるだけで、誰もこちらを見てはいなかった。



気のせい?



そう思い込むには強い視線に、ユキコはユリへ視線を向けた。



するとユリは真っ青になってフェンスの外を見つめていたのだ。



「どうしたの?」



聞きながらユキコもそちらへ視線を向ける。



その瞬間呼吸が止まった。



フェンスの向こう側に路地が広がっているのだけれど、電柱に隠れるようにして少女が立っているのだ。



白い服を来た同年代くらいの少女が、ジーッっとこちらを見つめている。



見つめ返しているとどんどん気分が悪くなってきて、ユキコはすぐに視線を外した。



「行こうユリ」



そしてユリの手を掴んで、その場から逃げたのだった。


☆☆☆


「今の見た!?」



体育の授業には戻らず、2人はそのまま校舎内へ逃げ込んで女子トイレに来ていた。



「見た」



ユリは頷く。



鏡には2人分の青い顔が映っている。



「あの写真の子だったよね?」



その質問にはユリは無言で頷いた。



さっきの少女の顔をマジマジと見たわけではない。



だけどあの写真に映っていた少女と同じ子だと、なぜか2人にはわかっていたのだ。



「なんで? あの子は誰!?」



「そんなのわかんないよ!」



ユリは叫ぶように答える。



ただわかっているのは、少女が2人について来てしまったということだけだった。



「やっぱりあんな洋館に行くんじゃなかった。きもだめしなんかしたから悪かったんだ」



ユリの声は涙ぐみ、両目からボロボロと涙をこぼし始めた



ユキコは呆然と立ち尽くしてそれを見つめることしかできない。



あの少女は誰なのか突き止めないと、この現象は終わらない。



そんな気がしていた。



それが的中したのはほんの10分後のことだった。

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