第6話

☆☆☆


その後もどうしても写真の中の少女について気になったユキコは、ユリを誘って自宅へと戻ってきていた。



学校よりも家の方が話がしやすいと考えたのだ。



「まずは廃墟の噂について整理しようか」



ユキコは丸いテーブルにオレンジジュースの入ったコップを2つ置いて言った。



「うん。暮らしていたのはヨーロッパから移り住んできた5人家族。うち4人は当時流行っていた病気で亡くなってしまった」



ユリの言葉をユキコはノートに書いていった。



「残されたのは母親1人。50代だったけれど、70代に見えるくらい老けてしまったんだよね。そしてあのリビングで自殺した」



ユリはリビングの写真を指差した。



「ここまでは別におかしなところはないよね? やっぱり家族の中に私達くらいの女の子がいたのかもしれない」



ユキコは自分で書いた文字を見つめて難しい顔をする。



「でも、やっぱりどう見ても日本人だよね……」



そこがわからないところなんだ。



写真の中の少女は日本人のようにしか見えない。



写真が暗いからそう見えるのかもしれないと思ったが、どうも納得できなかった。



「どういうことなんだろう」



考えてみればみるほどわからなくてうめき声をあげたとき、不意にカシャッ! と言う音が部屋の中に響いていた。



「今の音なに?」



ユリがビクリと肩を震わせて聞く。



「え、どうして?」



音の正体がすぐにわかったユキコは首をかしげて本棚へと近づいた。



その上に置いてあったポラロイドカメラを手に取る。



誰も触れていないのにシャッターが下りて写真が出てきているのだ。



カメラをテーブルの上に起き、出てきた写真を確認する。



「古いカメラだから、ちょっと動作がおかしいのかも」



説明している内に徐々に室内の様子を映し出した写真が出てきた。



そこにはテーブルに座っている2人の姿がある。



「なんてことない写真だよ。あの女の子も映ってない」



怯えているユリにユキコはそう説明をした。



「よかった」



ユリがホッと息を吐き出したその瞬間だった。



カシャッカシャッカシャッ!



と、立て続けにシャッターが下りて次々と写真が出てきたのだ。



「キャア!!」



思わず叫び声をあげて部屋の隅まで逃げるユリ。



ユキコの背中にも冷や汗が流れていた。



「だ、大丈夫だよユリ。心配しないで」



震える声でそう言い、出てきた写真を確認する。



徐々に映像が浮かび上がってきたそれはやはり部屋の様子が移されているだけで、自分たち以外の人物は見当たらない。



「ほらね、大丈夫だって」



ユキコは胸をなでおろして言った。



「本当に大丈夫なの? あんな場所で撮影したカメラだから、幽霊がカメラについて来たとかじゃない?」



「そんなハズないよ。幽霊がカメラに取り付くなんてさ」



そう答えながらもユキコは冷や汗が止まらない。



実は似たような内容の映画をこの前見たばかりだった。



その映画の中では主人公が使っていたカメラには殺人鬼の魂が宿っていたのだ。



もしもそんなことが実際にあったら?



考えただけで怖くて体が震えてしまう。



「ねぇユキコ、そのカメラはもう捨てたほうがいいよ」



「そ、そうかな?」



ひと目で気に入って購入したカメラを捨てるのは気がひける。



けれどこれからも怪奇現象が起きるようなら、もう手元に持っているわけにはいかなかった。



500円だったし、お目当てのものは撮影できたことで、手放す決意もついた。



「結局あの写真の少女についてはわからないままだけど、仕方ないよね」



2人で近くのゴミ捨て場にやってきて、ユリが呟く。



「うん。もうやめよう。本当に怖くなってきちゃったし」



ユキコはそう言って、ゴミ捨て場のボックスにカメラを投げ込んだのだった。



戻ってくる


カメラを捨てて家に戻ってきたユキコは透明袋の中に塩を入れて、その中に写真を入れた。



本当はちゃんとお寺などに持っていって供養してもらったほうがいいと思うのだけれど、ユキコ1人でそこへ行く勇気はなかった。



両親へ説明して連れていってもらうこともできるけれど、きもだめしに行ったことや夜家を抜け出したことをすべて話さなければならなくなってしまう。



怒られるのが嫌で、こうしてつぎはぎの知識でどうにかしようとしたのだ。



ユキコは袋の口を固く結んで、引き出しの一番奥に写真を入れたのだった。


☆☆☆


その日は不思議とグッスリ眠ることができた。



きもだめしをした当日は興奮してしまって朝まで寝付くことができなかったから、その分も爆睡した気分だ。



とてもスッキリとした気分でカバン片手に家を出る。



「いってきまぁす!」



と、リビングへ向けて元気に挨拶をして玄関を開けたその途端、ユキコは足を止めていた。



玄関先にあるソレをジッと見つめてみるみる内に青ざめていく。



そこにあったのは昨日捨てたポラロイドカメラだったのだ。



「なんで……?」



震える声で呟く。



呆然と立ち尽くしてしまって動くことができない。



一瞬で白い服の少女の顔を思い出してしまって強く身震いをする。



落ち着いて、幽霊なんかじゃないから。



自分自身にそう言い聞かせる。

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