第5話


翌日C組の教室へ入ると男子たちが近づいてきた。



「お前ら、本当に昨日きもだめしに行ったのかよ?」



その言葉は半信半疑な響きがした。



「行ったよ。ねぇユリ?」



「うん」



「でもなにもなかっただろう?」



「それは、そうだけど……」



ユキコはそう答えてから写真を撮影したことを思い出した。



「ちょっと待って、私達写真を撮影してきたの」



カバンの中からポラロイドカメラで撮影した写真を取り出し、机の上に並べて行った。



「なんだこれ、どれも暗い写真だな」



「そういう機械で撮影したの」



説明するのが面倒でユキコはそう答えておいた。



1枚めはリビングの写真。



噂ではあの洋館の母親はここで首を吊って死んでいた。



しかし写真にはなにも写っていなかった。



一番なにかが映り込みそうだと思っていた場所だったから、少し拍子抜けしてしまう。


次はキッチンだ。



「このキッチンすげーよな。こんなの普通の家では見たことないぜ」



男子が興奮した様子で言う。



それには同感だったのでユリとユキコも頷いた。



でも、この写真にもなにも写っていない。



「でも、なにも写ってないね」



不服そうに言うユキコに男子が肩を叩く。



「心霊写真なんてそう簡単には撮れないだろ。でもこれでお前らがあそこに行ったって証拠にはなる」



それはそうだけれど、証拠として撮影したわけじゃなかったのでやっぱりユキコには不満が残った。



続いて3枚目、4枚目と確認していくけれど、やっぱり心霊写真は撮れていなかった。



落胆しそうになったとき「これなんだ?」と、男子が1枚の写真を指差して言った。



それは最初に確認したリビングの写真で、特に変なところはなかったずだ。



「ほらここ。部屋の入口あたりに誰か立ってないか?」



そう言われてよく確認してみると、たしかにそこに白い服を来た女の子が写っているのが見えた。



すぐに気が付かなかったのは、写真全体が暗く写っていたからだ。



「すごい、これ本物の心霊写真だよ!」



ユリが興奮したように大きな声をあげて、他のクラスメートたちまで集まってきてしまった。



「こっちにもいる!」



「嘘!?」



あっという間に友人たちに取り囲まれて、次々に写真に写った同じ少女に気がついた。



合計3枚の写真に白い服の少女が写っていてユリとユキコが互いに目を見かわせた。



「これ本物? もう1人幽霊役がいたんじゃない?」



「ううん。行ったのは私達2人だけだよ」



それでもクラスメートたちはうさんくさそうな視線を2人へ向けてくる。



見れば見るほどそれほどハッキリと映っているのだ。



ジッと見れば少女の顔もわかるくらいに。



だけどユキコたちは嘘はついていなかった。



確かにあの屋敷へ入ったのは自分たち2人だけだった。



もしかしたら自分たちが屋敷へ行くよりも先に誰かが入っていて、こっそりカメラに写り込んだのかもしれない。



「でも、それだけ気がつくよね……」



ユキコは顎に手を当てて考え込んだ。



こんなにハッキリカメラに映る場所に人が立っていたのなら、自分たちだって気がついていたはずだ。



それが、あの時はなにも気が付かなかったし、人の足音だってしなかった。



「なんだ、嘘かぁ」



クラスメートたちががっかりした声を出して離れて行く中、ユリとユキコは目を見かわせたのだった。


☆☆☆


写真を何度確認してみても、たしかに白い服の少女が映っていた。



少女はユキコたちと同い年くらいでジッとカメラへ視線を向けている。



「でも、どうして女の子なんだろう?」



昼休憩時間、もう1度写真を確認していたユキコが言った。



「そうだよね。あの洋館での噂の中に少女なんて出てこないもんね」



出てくるのは5人家族だ。



その中に少女がいたのかもしれないが、あの洋館内で自殺をしたのは母親1人だけ。



「もしかして、お母さんを探しに娘さんが来たとか?」



ユリの言葉にユキコは首を傾げた。



そういうこともあるかもしれない。



だけど写真を見れば見るほど、それは日本人の女の子に見えるのだ。



「それか、母親が若い頃の姿で出てきているか……」



いつか読んだ本の中で幽霊は季節や年齢がバラバラになると書いてあった。



老衰した男性が若い頃の姿になって現れたということもあるらしい。



「この写真だけじゃわからないね」



「うん」



答えながらも、ユキコはなぜだか写真の中の少女に惹きつけられていたのだった。

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