第4話

☆☆☆


丘の上に建つ洋館は昼間見るよりももっと威圧感があった。



さっきまで月明かりが周囲を照らしてくれていたのに、今では雲にかげってライトがないと周りが見えなくなってしまっていた。



「すごいね」



ユリは洋館を見上げて呟く。



「本当だね。学校の教室から見るのとは全然違う」



2人ともこの洋館を間近で見ること事態が初めてだった。



想像以上に大きくて、きもだめしに時間がかかったという話しは本当なのだと思った。



ユキコはライトで洋館の前にある門を照らした。



元々は黒く塗装されていた門はあちこちが剥げて赤錆が浮いている。



少し手で押してみると、ギィィィィと錆びついた音を立てながらも開いた。



「本当に入るの?」



ユリが後から声をかけてくる。



「ここまで来たんだもん。少しくらい入ろうよ」



思っていた以上の存在感に2人共腰が引けていたけれど、クラスメートたちには洋館へ行ってみるのだと話ていたのでここで引き下がるわけにはいかなかった。



せめて、1枚でもいいから洋館内の写真を撮っておかないと。



門をくぐって敷地内へ足を踏み入れると途端に雑草が足首に絡みついてきた。



丘の上は綺麗に刈り揃えられているけれど、ここは私有地になっているから管理ができないのだろう。



「足首がチクチクする」



夜露に濡れた雑草にユリは顔をしかめる。



「来たこと後悔してる?」



「少しだけ」



素直なユリの返事に思わず笑ってしまい、気分が和んだ。



そのまま玄関へ向かうと木製のドアが現れる。



試しに手で押してみたけれど、こっちはビクとも動かない。



内側からカギがかかっているようではなく、歪んでギシギシと音が鳴るばかりなのだ。



「この洋館もうすぐ壊れちゃうんじゃない?」



ユリが不安そうな表情になってライトを屋根へと向ける。



屋根も随分傷んでいてあちこちに穴が開いていそうだ。



「それなら、これが最初で最後のきもだめしになるかもしれないね」



俄然、心霊写真を撮ってやろうという気になってきて気合が入った。



ユキコは舌なめずりをして玄関横の大きな窓へと足を進める。



こちらは窓が割られていてすぐに開くことができた。



男子たちもここから屋敷内へ入ったと言っていたのだ。



土足のまま人の家に上がることには少し抵抗があったけれど、2人ともそのまま屋敷内へと足を踏み入れた。



割られた窓の部屋はリビングだったようで、大きなソファと大理石のどっしりとしたテーブルが残されていた。



ソファはあちこち破れて、テーブルにも大きなヒビが入っている。



ユキコはさっそくカメラを向けた。



リビング全体が見渡せるように写真を撮る。



「そのカメラすごいね」



自動で撮影された写真が出てくるのを見てユリが言う。



似たようなカメラはあるけれど、ここまで本格的なものを見たのは初めてみたいだ。



「撮った写真は後で確認しよう」



洋館は広いからもたもたしてはいられない。



ユキコは写真を手に持ったまま次の部屋へと向かったのだった。


☆☆☆


1階にはリビングに客間にダイニングにお風呂、トイレがあった。



キッチンらしき部屋もあったのだけれど、そこは本格的な厨房になっていて料理人たちが出入りしていたのだろうとわかった。



「お金持ちだったんだね」



ユリがため息交じりに言う。



自分たちの生活とはかけ離れているその家に、ユキコもなんとも言えない心境になってきている。



「でもここの人たちはみんな死んじゃったんだよ。病気と自殺で」



いくらお金があっても変えられない運命はある。



それをこの廃墟は物語っているように見えた。



それから2人は2階へと移動した。



階段はほこりを被っていたけれど思いのほかしっかとしていて、ユキコたち2人分の体重を支えてくれた。



「ここは寝室だったのかな」



2階の一部屋開けてユリが呟く。



中を覗いてみるとキングサイズのベッドが中央に置かれていた。



ベッドの真ん中が折れていて使えなくなっているけれど、夫婦がいた可能性は高い。



ユキコはそこの写真も撮影しておいた。



「別に変わったことはなにもなかったね」



30分ほどして洋館から出たユリがホッとした様子でつぶやく。



見た目はおどろおどろしい洋館だけれど、入ってみるとそこまで怖くなかったというのが本音だった。



妙なことも起こらなかったし、幽霊も出てこなかった。



「ちょっと拍子抜けしたね。でも私達は写真を撮影しているから、なにか写ってるかも」



写真は全部で10枚ほど撮影した。



後でゆっくり確認するために、今はリュックの中に入れている。



「それは明日の学校で確認しようよ。今日はもう帰ろう」



茂っている草のせいで虫がたくさんいてユリは噛まれてしまったみたいだ。



さっきからひっきりなしに足をかいている。



「そうだね。今日はもう帰ろうか」



これからまた、両親にバレないように縄梯子を上がって自室へ向かうのだと思うとのんびりしている気分ではなくなった。



ユキコは素直に頷いて、ユリと共に丘を下ったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る