職場の同僚女と対話する

 ブラとショーツ姿でベッドに横たわる、頭のおかしい女が居る。

 思わず見てしまうが、目を瞑って寝たのかと思ったら、急に目を見開き「一緒に寝ようよぉ」じゃねえよ。

 お前の居るベッドは真帆と俺が寝るんだよ。くっそ。ちゃっかり占拠しやがって。


 それにしても、胸のサイズはそれほどでも無いんだな。真帆の方が遥かにでかい。

 ただ、なんか触りたい衝動が。抑えるのもひと苦労だし、触ったら、その瞬間に強姦されたと言われかねない。世の中、男の言い分なんて、一切通じないからな。女が襲われたと言えば、男は確実に有罪になるんだよ。

 耐えるしかない。


 ショーツから二本の足が剥き出し。これもまた触れてみたい。感触を知りたいんだよ。しかし、触れることはご法度。決して誘惑に負けてはいけないのだ。


「寝ないのぉ?」


 邪魔なんだよ。


「してもいいからぁ、一緒に寝ようよぉ」


 手を伸ばして俺を誘う、頭のネジが外れた女が居る。

 いつまでも、こうしていても仕方ない。頭を冷やす意味でも、シャワーを浴びて冷静になろう。

 ベッドに横たわる頭のおかしい奴を放置し、風呂場へ向かいシャワーを浴びる。

 突っ張り過ぎる股間は久しぶりだ。パンツを脱ぐとやっぱ漏れてるし。生の威力は真帆を上回った。ごめん、真帆。俺の嫁なのに浮気した気分だ。


 シャワーを浴びて落ち着くと、椅子に腰掛けベッドルームに居る、頭のおかしい奴の様子を窺う。

 どうやら寝てしまったようだ。

 ため息しか出ない。

 今夜、俺はどこで寝るんだよ。奴と一緒なんてのは問題外だし。


 くそ。ここで臥せって寝るしか無いのか。とんだ厄介者が家に上がり込んだものだ。酒に酔ってるからな。迂闊に手を出すわけにも行かない。素面になった時に、どんな無残なことになるか想像に難くない。

 確実に警察に突き出され、俺のキャリアが閉ざされることになる。家宅捜索なんて入られたら、真帆も証拠品とか言って押収されかねないし。


 テーブルに突っ伏してみるが、寝心地以前の問題だな。

 まともな睡眠は期待できないし、翌日に疲れを残すは必定。


 それでも気疲れが激しかったのか、うとうとしている間に、意識を手放したようだ。


 夜中に何度か目が覚める。

 寝心地の悪さ、いや、寝る場所じゃないんだよ。そもそもテーブルなんてのは。


 眠気に抗うことはしたくない。だが、姿勢がそれを許さない。

 ベッドルームを見るとお気楽な奴が、すっかり占拠して大の字になってるじゃねえか。開かれた足の間にある、まだ生で見たことの無い部分。エロ動画では散々見てはいるが、実物を拝見したことも無い。拝みたい。だがそれをやったら性犯罪者。

 生殺しじゃねえか。


 再びテーブルに突っ伏し寝るよう、努力してみる。

 悶々とする意識の中、もぞもぞとベッドの上で動く物体が居る。

 視線を向けると起き上がったようで、きょろきょろしてるし。ここはどこ、って思ってるんだろうな。俺の部屋と理解した瞬間、何が起こるか。

 強引に連れ込んでエロいことをしようとした、なんて、警察に通報するか?

 だから嫌なんだよ。酔った女なんて地雷でしか無いだろ。


 目が合った。


「あれ?」


 暫し考え込んでいるようだ。

 酒は抜けたのか?


「高野さん?」

「そうだ」

「えっと。ここは?」

「俺の家だ」


 うんうん、唸りながら記憶を辿っているのだろう。そして、思い出したのか「あ、そう言えば」なんて言ってるし。


「ごめん。なんか迷惑だった?」

「凄い迷惑だな」

「あーでも、電車、動いてないよね」

「今は午前三時だ」


 ベッドから下りて、こっちに来るが、いいのか? 下着姿のままだぞ。


「あの、えっと、手、出した?」

「一切出してない」

「あ、そうなんだ」


 自分の姿を見て「こんな格好してたのに、紳士なんだね」だそうだ。


「今なら手を出しても同意の上で通るけど」

「やらん」

「そう……」


 やっても文句言わないよ、だそうで。ひとり暮らしの男の家。下着姿。勝手に転がり込んで迷惑掛けてることもある。やられても文句言える筋合いじゃ無いとかで。

 アホか。

 こっちに移動すると座ってる真帆を見てる。


「ダッチワイフ……」

「違う。ラブドール」

「そう言うんだ」


 使ってるの? と聞かれるが数回程度と言うと「人間の方がいいよ」だそうだ。

 勝手に真帆の胸を掴むな、こら。


「感触が違い過ぎるよ」

「だろうよ」

「試す?」

「何を?」


 自分で試してみればいいとか言ってるし。こいつ、俺が相手でもいいのかよ。

 全ての女が拒絶してきた俺だぞ。お前も同じだろうに。それとも弱みを握られたとか思ってるのか?

 訳分からん。


 指一本触れる気は無いと言うと、首を傾げ「うーん」って唸ってるよ。

 俺に向き合うように視線を寄越すと、疑問に思っていたことを聞いてきたようだ


「高野さんって、なんで女性を避けてるの?」


 避けてる? 違うな。避けてるのは女であって俺じゃない。


「職場で一度も会話してるの見たことない」


 仕事は真面目に取り組んでいて、上司からの評価も高いと聞いているそうだ。

 話し掛けようと思っても近寄り難く、目が合うことすらなく会話の取っ掛かりも無いとかで。

 なぜ避けられているのか分からないらしい。


「今日の飲み会でも、離れた場所でひとりだったでしょ」


 今も下着姿で誘っているのに指一本触れないとか、でも、ストイックとも思えないそうだ。


「えっと、ラブドールだっけ? 性欲はあるんだよね」


 実に変わってると思うらしい。

 変わってるわけじゃない。女が俺を嫌悪したからこうなった。俺には女から見て人権すら無かったのだから。

 死ねよ、だぜ。普通面と向かって言うか?

 まあ、こんなことまで言う気は無いし、何かあれば悪いのは男だし面倒だからな。


「詮索するな」

「詮索じゃなくて、疑問なんだけど」


 そう言って俯き加減になり、眉尻が下がり悲し気な表情を見せている。

 顔を上げ俺の顔を見据える感じになると。


「あのね、少し気になってたんだ」

「は?」


 気になるってのは、早く消え去らないかとか、早く死ねばいいのにとかか?

 良い意味での気になるとは思えんが。


「鬱陶しいから消えろってか?」

「何それ。何で鬱陶しくなるの?」


 意味が分からないと。


「もしそうなら、こんな格好見せると思う?」


 頭おかしければ無くは無いだろ。

 つい視線がブラに向くと「嫌じゃなかったら見ていいし触っていいし」とか言ってる。やっぱ頭おかしいよな。


 暫く話をしてみると、最近の俺の仕事ぶりに感心していて、抱いていた印象とは違うと思ったらしい。

 そうなると俄然気になってくるのは、なぜ女性を避けているのかだったと。


「理由が分からないから、どうすればいいのか分からないし」


 結果、酔った勢いを利用して近付いてみたら、少々羽目を外し過ぎて下着姿で向き合うことに。恥ずかしさは多少あるのだとか。

 とてもそうは見えなかったが。

 理由を無理に話す必要は無いが、少しは打ち解けてみて欲しいそうだ。


 無いな。

 女は信用ならん。俺には真帆が居ればいいし、生身の女はリスクでしか無いのだから。

 ひとつ気になったことがある。


「酔ってる時と今だと話し方が違うのは何でだ?」


 少し照れる感じで頭を掻きつつ「酔うと甘えちゃう癖があって」とか言ってる。

 気になる人の前だと余計に甘えてしまうそうだ。


「高野さんだから」


 分からん。


「高野さん、普通にあたしと会話できてる。女性との会話が苦手ってわけじゃ無いよね」


 時々会話が苦手な男は居るけど、それとは違うと思うそうで。


「急にとは言わないから、少しずつって、できないのかなあ」


 無いな。

 信頼に値する女は居ない。


 笑顔を見せての懐柔策だろうか、エッチしてもいいよって、やっぱ頭おかしい。

 ある程度話が済むと眠そうに欠伸をしてる。

 俺も眠いんだが、ベッドはひとつ。一緒に寝るのは無い、となれば俺が椅子で寝るしか無いのか。


「一緒に寝ようよ」


 俺を誘う頭のおかしい女が居るようだ。

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