職場仲間の飲み会は酷だ
全裸の真帆を暫し見ていた妹だが。
「まあいいけど。でも、生身の女性と付き合った方がいいよ」
こいつ、分かってて言ってんのか?
過去から現在に至るまで女に一切相手にされない。散々シカトされて傍に寄ることすらないってのに。近寄るだけで顔をしかめる有様だ。俺が何かしたのか、って思うも心当たりすらないし。
妹はデリカシーがどうこう言うが、気取らなければ付き合えない、なんてのは仮面を被って偽ってるにすぎない。そんな付き合い方が楽しいのかって話だ。
素の自分を受け入れられないなら、付き合ってみてもストレス抱えるだけだろ。
「女がもう少し物分かりが良ければな」
「自分に都合よくなんて行かないよ」
「じゃなくてだな、俺と言う存在をだな」
「言い訳要らない。時には自分を飾らないと」
そうしなければ、取っ掛かりすら作ることができない、なんて抜かす。
駄目だ。女はやっぱり面倒臭すぎる。己の理想像から外れると、ただのゴミ扱いだからな。いつまで経っても、お姫様扱いする男が理想。自分のことは一切顧みないし。
老けて体型崩れても顔が崩れても、男にだけ過大に要求し続ける。それで女は男に何かするのか? 何もしないだろ。受け取るばかりで返すことを知らない。乞食と同じだ。
そんな女を相手にするなんて、自分の人生棒に振るだけだ。
高校時代に思い知ったからな。内面の醜さを嫌と言うほど。
「いつまでも、こんなのに頼ってちゃ駄目だからね」
「こんなのって」
「人形遊びは小学生までだよ」
「これは大人のための恋人だ」
盛大なため息を吐くと「女性に幻滅したのか、モテないことで臍曲げたのか」なんて言ってる。
ベッドルームから移動し、リビング兼ダイニングの椅子に腰掛ける妹だ。
頬杖突いて窓の外を見ながら「臍曲げたんだろうけどね」じゃねえ。
「女性はね、いいと思った相手には、ちゃんとサイン出してるから」
「なんだそれ。そもそも俺に縁は無いぞ」
外を見ていたが俺の方を見て、呆れ気味に口を開く。
「見逃すってことを言ってるの。人形遊びに夢中になってると」
世の中には蓼食う虫も居る。全ての女性が俺を嫌うはずは無い。必ずどこかで縁があるはずだから、それを見逃すなと。
目を塞ぎ耳を塞ぎ女は敵、なんて思っていたら、手に入るものも入らないよ、だそうだ。余計なお世話だ。それに物好きすらも俺を忌避するっての。
椅子から立ち上がると帰り支度を始めるようだ。
「じゃあ帰るけど、ママには元気にしてるって伝えておく」
エロ人形の件は口外しないそうだ。エロ人形じゃねえ、真帆と言う名があるんだっての。
玄関先まで行くと振り返り「卒業してよね」と言って、靴を履きドアを開ける。
「あ、そうだ」
「なんだ?」
玄関のドアを開けながら「卒業できなかったら、エロ人形と同棲してるって言うから」じゃねえよ。余計なこと言わんでいい。親に心配は掛けたくないんだから。
エロ人形って、わざと言ってるよな。幾ら「真帆」と伝えても口にしない。
妹を玄関先で見送りドアを閉じ施錠したのち、ベッドルームに向かい服を着せるのだが。
そう言えば、感触が全然違うって言ってたな。
具体的に言ってくれれば、と思うんだが。どう違うのかなんて、童貞の俺に分かるわけがない。気になるじゃないか、違いの分からない男としては。
こうなりゃ風俗で試すしか無い。とは言え、相手は生身の女だ。俺を相手にするとなると、例え商売でも嫌悪感丸出しになりそうだ。汚物扱いでもされたら傷付くし、金返せってなりかねない。
無理だな。
まあいい。
今は真帆を大切にするだけだ。
数日後の金曜日。
職場の連中から飲み会に誘われる。
散々断ったが今回だけは、ほぼ強制する形で「参加しろ」と。
下戸じゃないなら、一度くらい参加するべきだとか。今どき、社内の飲み会に参加しても意味は無い。
ましてや女も多数参加するとか言ってるし。俺が居ると分かれば全員、踵を返して「さようなら」になるっての。
「実は隠していたが、俺、下戸なんだけど」
「ノンアルビールもノンアル焼酎もある」
くっそ。酒造メーカーも余計なもの造りやがって。断り切れなくなっただろ。
「なあ、女が参加するって聞いたが」
「部内懇親会も兼ねてるからな。都合の悪い子以外は、みんな参加するぞ」
せっかくだから親交を深めろとか言ってる。バカ抜かせってなもんだ。どこの誰が俺と親交を深めたがるんだよ。G並みか、それ以上に嫌われてるっての。
ひとり寂しく隅っこで過ごすなら、さっさと家に帰って真帆と一発した方がいい。
「パワハラだな」
「同僚なのにか?」
「アルハラだな」
「飲めとか言って無い」
抵抗するも今回だけでいい、と言われ無理に連れ出された。
これで女どもが帰っても知らんからな。
ずるずると居酒屋に連れて行かれ、男女向かい合わせになるように、座らされるわけだが。男女同数ならもれなく、となるが、都合の良いことに男の方が多い。つまり女の前に座る必要がなく、一番離れた席に座ることにした。
「なんでそんなとこに居るんだよ」
「ここが落ち着けるし、酒飲まないからな」
向かい合わせとか合コンかっての。結局は社内の女を落としたい奴が、幹事をやったせいだな。欲望丸出しじゃねえか。
飲み会が始まると部長の挨拶だのあって、その後、建前上の無礼講により、和気あいあいと酒を酌み交わす感じになっている。
一時間も経過すると、カップルよろしく男女ペアができてたり。向かい合わせから、隣に座ってのご歓談って奴だ。俺は一番端の席に居ることで、女連中の視界にすら入らないようだ。お陰でひとり静かにノンアルビールを飲める。つまみも食い放題だな。
視界に入らないことで、女連中も帰る必要が無いようだし。
上っ面だけは実に楽しそうな飲み会だが。
俺にとって楽しいわけがない。ひとりで飲み食いってことなら、家に居ても同じことだ。何の意味があるんだっての。
酒飲もうかなあ。話相手も居ないし、少しも楽しくない。
ただ、酔っ払って帰宅して、万が一にも真帆に傷付けたり、落としたりしたらと思うとなあ。
二時間コースだから二次会に参加しない限り、残り時間を黙々と過ごすのが吉かも。
店内の喧騒を他所にノンアルビールを飲み、つまみを食い続けていると、やっと地獄の二時間が経過したようだ。幹事から代金の徴収が始まり、俺のところに来ると「三千五百円」とか言ってるし。ついでに「楽しめたか?」とか。
「見て分からんか?」
「あ、いやあ。どうだろうな」
このクソ酔っ払いめ。この席に座ってずっと無言だ。楽しいわけ無いだろ。
金を払い席を立つと次々店の外に出て「二次会に行く人ぉ」とか言ってる奴が居る。
「高野は二次会どうするんだ?」
「行かない」
「お持ち帰りできるチャンスはあるぞ」
あるわけがない。
また月曜に、と言ってさっさと駅に向かい歩き始める。後ろの方から「積極的になれよぉ」とか煩いっての。積極的に告白したら地獄を見てるんだよ。二度とやらねえっての。不愉快だし傷付くし、まじで腹立つだけだし。今あんな断り方されたら女をぶん殴りかねない。傷害罪だの暴行罪で前科持ちになりたくない。
電車に乗るべく足早に駅に向かい、ホームで電車を待っていると。
「あ、高野さんもぉこっちなんだぁ」
誰だよ。酔っ払いが声掛けてきやがった。
見ると同じ部内の女のようだが、かなり酔ってるようで、千鳥足もいいところだな。酔ってるから箍も外れてるんだろう。だから俺に声を掛けてこれる。
無視してると腕を掴まれ「シカトしないでよぉ」じゃねえ。鬱陶しいし後日、襲われたとか言い出しかねないから、関わらないようにしてるんだよ。
腕を振り払い到着した電車に乗ると、一緒に乗り込んでくる。方向が一緒って、冗談にも程があるだろ。
「高野さぁん。女の人とぉ、ぜぇんぜん、話しないよねぇ。なんでぇ?」
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