第6話 後輩

「まあまあって(笑)」

「何かあったのか?」

「いや、そういう訳では無いけど…」


聞きたくない会話を耳にしてしまって、私はここから一歩も動けないでいた。


「なんて言うか、飽きたんだよね。特別良いのは顔と体だけだし。」


この言葉を聞いて、私は何故か安堵した。ザワついていた心が一気に穏やかになった。


最近、先輩といても彼は暗い顔をしていて、楽しさを感じず、ずっとモヤモヤしていたからだ。


それに、私の事を好きになってくれた人達は、みんなして顔が好きって言う。それを嬉しいと感じる人ももちろんいるだろうけど、私は嬉しく感じられなかった。いつも見た目だけで判断されて、中身を見てもらえないというコンプレックスが生まれてしまったのだ。


私の人間性で評価してくれる人が今後現れるのだろうか、と考えながら、私は未だに動けないでいた。


「おーい、沢木。」


そんな私を見兼ねてか、同期の有迫悠真ありさこゆうまが声をかけてきた。


「どうしたん?ボケーッとして。」

「いや、別に何も無いよ。」

「そうか、まぁ、いつもぼーっとしてるもんな(笑)」

「何よ!バカにするな(笑)」


いつもの感じだ、とても落ち着く会話だ。私は悠真との掛け合いに安心したのか、無意識に涙が出てしまった。案の定、彼は動揺してしまったから、事情を話すことにした。


「……そうか、そんな事があったのか。」

「うん。ごめん、気を遣わせて。」

「ううん、全然平気だよ。…にしても、先輩(あいつ)憎たらしいな(笑)」

「…うん。」


悠真は、同情心からか、一緒にサークル辞めるか!なんて提案をしてきたが、断った。友達にまで迷惑をかけたくない。


そんなモヤモヤを抱え込みながら、一ヶ月が経った。

ある日、私は西村先輩に呼び出された。


「別れて欲しい。」


あぁ、ついに来た、と思った。私はその要望を受け入れた。

こうして、私と西村先輩の恋は幕を下ろしたのだ。

酷寒とともに私の心は冷たくなっていた。

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