第5話 先輩

「…相馬くん!大丈夫?」

「痛え。」

「そ、そうだよね、ホントにごめんね…」


彼女は自分のせいで僕が怪我をしたのだと言うから、僕はそれを否定した後、事情を聞いた。


彼女は涙声で、時々詰まりそうになりながらも話してくれた。


─沢木葵、大学1年生・夏。

「葵ちゃんのことが好きです。付き合ってください!」

「はい。よろしくお願いします。」


私は、一学年上の先輩に告白され、付き合うことになった。出会いは、テニスサークルだった。


先輩が言うには、一目惚れだったらしい。

別に悪い人ではないし、カッコイイし、一緒に居るととても楽しい人だと思っていたから、付き合うことにした。


彼氏彼女になってからは、毎週どこかへ連れて行ってくれて、楽しませてくれた。浜辺でお互いの夢も語り合ったし、星空の下で愛を囁き合った。私の寂しい心も埋めてくれた。


しかし、ある時をきっかけに、私たちの関係は崩れていった。


サークル終わりの冬の空。

整備と備品回収のため、私はコート横の倉庫へ向かった。扉を開けようとした時、中から複数人の声が聞こえてきた。


「葵ちゃんと最近どうなの?」

「あぁ…まぁ、まあまあだよ(笑)」


私の彼氏である西村先輩が、他の先輩と私のことを話していた。


「まあまあって(笑)」

「何かあったのか?」

「いや、そういう訳では無いけど…」


聞きたくない会話を耳にしてしまって、私はここから一歩も動けないでいた。


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