第43話 影の冒険家の願い

「馬鹿な……!」

 エドガーさんの驚いた声が辺りに響く。

 目前もくぜんせまっていた焦げ茶色鋭利な木の枝を、私の足元から伸びてきた赤茶色の木の枝が弾き飛ばす。

 さっき私の腕を掴んでくれた木と似ている気がした。

「どうして……パゲアの者以外が自然を操ってる……?」

 エドガーさんの言葉を無視して私はまっすぐティランノスに視線を向ける。

「今助けるから!ティランノス!」

「俺のことはいいから!早くここから逃げろ!今の俺に自然の怒りを納めることは……できないんだ」

 私は筋肉痛の足を動かしながら、ティランノスの言葉の意味を考える。

 どうやらこの舞台の自然達は怒りで暴走しているようだ。世界を壊す大木たいぼくの育成を邪魔するものがいるのなら、先ほどの鋭利えいりな木の枝を獣のきばのように向けて来る。

 いつティランノスにその牙が向けられるか分からない。私は壁画の、祭祀長が枝につらぬかれる絵を思い出して唇を噛み締める。

 そんなこと……させない!

 何度も凶悪な木の枝が襲ってくるけどその度に私の側にある木が守ってくれた。だから私はティランノスの元に走ることができる。

「ライリー!止まりなさい!君はまだ子供だから分からないんだ。この『アース・コア』でどれだけ世界が変わるのか!オズウェルと私は数多くの世界の歪みを見てきた……。『アース・コア』さえあれば止められる争いがある!貧しい人達を救うこともできる!世界のゆがみを直すのにパゲアの資源が必要だと私もコンピュータも結論を出したんだ!」

 エドガーさんの言っていることが正しいのかもしれない。新たな資源が見つかれば人の世界は豊かになる。貧しさから海賊になったあの姉弟達だって、他の人から何かを奪うことを止めるかもしれない。

 それでも私は納得することができなかった。

 だって……そのためにパゲアとティランノスを失うのは嫌だ。それに地上でも犠牲になる人が出てしまうかもしれない。

「お父さんだったら……もっと別の方法を考える!」

「オズ……ウェル?」

 エドガーさんが顔を青ざめさせて、たじろいだ。お父さんはここにいないはずなのに、私を見て恐れおののいている。明らかに様子がおかしい。

「こっちに来るな!亡霊め!」

 そう言って私に向かって引き金を引こうとする。

「ライリー!」

 ティランノスが体を動かして、自分の体にまとわりつく根から逃れようとしていた。エドガーさんが引き金を引く方が早い。

 パンッという、お父さんの命を奪ったあのまわしい音が私の鼓膜に木霊こだました。




 

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