第41話 世界を繋げる儀式

「はあっ……はあ。あと……あともう少し」

 螺旋状らせんじょうの木の階段を駆け上がるのは、目が回りそうだった。両足のふくらはぎがぱんぱんになる。

 それに、いくら足場が安定したと言っても足を踏み外せば一貫いっかんの終わりであることに変わりはない。緊張感を保ちながらも私は木の幹を一歩一歩踏みしめる。

「ここが……頂上?」

 息を切らしながら最後の木の枝に足をかける。

 木のてっぺんは切り株のような広場になっていて両端からおびただしい数の木の枝が天井に向かって伸びていた。

 私は自分の膝に手をつき、息を整えながら周囲を見渡す。

 空は既に白み始め、朝を迎えようとしていた。

 広場の中心に膝をつき、祈りを捧げるティランノスの姿を見つける。背後にはエドガーさんが銃を突き付けている姿があった。

 ティランノスの体が木と一体化するように、足元に根が巻き付いてるのを見て、私は堪らず声を上げた。

「ティランノス!」

 両手を握って祈りを捧げていたティランノスが弾かれたように顔を上げた。

「ライリー?どうやってこんなところに……?」

 ティランノスであれば少し前のように光虫ひかりむしから事情が分かりそうなものだと思ったが儀式中は難しいかもしれないと思い直す。何故ならティランノスの周りにこの巨木以外に自然や昆虫がいなかったから。

「馬鹿な!普通の人間がどうしてこんなところまで登って来れる?有り得ない!」

 エドガーさんが銃口をティランノスから私に向けた。いつも冷静なエドガーさんの顔が驚きに染まる。

「……エドガーさん。儀式をすぐにやめてください!ティランノスが危ないだけじゃない!……パゲアも私達の世界も壊れるかもしれないんですよ!」

 咳き込みそうになりながらも何とか相手に届くだけの声を上げることができた。

「ライリー……」

 ベール越しにティランノスのほっとした顔が見える。良かった……!元気そうなティランノスの姿に私も安心する。

「知ってる」

 エドガーさんは信じられないようなことを口にした。

「世界にどんな影響が出るか、私も知っているさ。儀式を行った祭祀長の命が失われることもね。それら全てを覚悟した上で儀式をしているんだ!」

「そんな……!だってそんなの矛盾むじゅんしてる!だって、エドガーさんは地上の私達の世界のためにパゲアの資源を手に入れようとしてるんでしょう?」

 エドガーさんはため息を吐きながら言った。

「だから、犠牲はつきものなんだよ。我々は儀式による災害よりも『アース・コア』を得る方が人類にとっていいことだと答えをだした。勿論、コンピュータも計算済みだ。ライリー、君は分かっていなんだ。我々がどれだけ幸運な状況にいるということを!」

 エドガーさんが興奮したように続ける。

「地球が生まれた頃と同時期に生まれたエネルギーだぞ!それを資源が枯渇した今現れるなんて……。神の導き意外に考えられるか?『アース・コア』を手に入れずしてどうする!

賢い君なら分かるだろう。ライリー?」

 この時初めてパゲアに眠る資源が『アース・コア』と呼ばれているのだと分かった。それと同時にエドガーさんの思考に私の心は凍りついていた。

 エドガーさんは仕方のないことだと思ってるんだ。地上が、自然がパゲアがどうなろうと。ティランノスの命がどうなろうと……。


 


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