第35話 もの言わぬ目撃者(1)

 光虫ひかりむしが青白い光に戻ると、洞窟は再び静けさを取り戻した。

「私は……これからどうすればいいんだろう」

 ぼんやりと地面に膝を抱えて座る。パゲアの人達が捕らえられているので下手へたに行動すると危ない。それに、私はショックから立ち上がれないでいた。

 エドガーさんの思惑も知らず私はパゲアを目指し、ティランノスを、パゲアの人達を危険な目に遭わせたのだ。

「私……冒険に出なければよかったのかな?」

 自分で自分の夢を否定するようなことを口に出して悲しくなった。唇が震え、目に涙がまる。

 

 突然、洞窟に場違いな子供の朗らかな笑い声が聞こえてきて私は顔を上げた。

「え?」

 その笑い声というのは思いもしない場所から聞こえてきたのだ。

いずみに何かが映ってる……」

 なんと泉に映像が映し出されているのだ。まるで映画館のように。しかもその光景は……パゲアの森だった。

 やがて泉に驚くべき人物が映し出される。


「地上にも面白いもんが沢山あるんだ!ここで通信機器のたぐいは使えないが、このスマートフォンみたいなもんが沢山ある!」

「これ、何に使うの?」

 懐かしい、大きくてはっきりとした声。私と同じ赤茶色の髪。少年のように輝く瞳……。

「……お父さんっ」

 思わず上ずった声を上げてしまう。

 映像に現れたのはお父さんで、金と銀が混ざった髪の男の子と話を続けている。

 私は段々とあることに気が付いた。

「あれは……子供の時のティランノス?」

 信じられないけど、泉に浮かぶこの映像は過去のものらしい。


「ぼくもオズウェルみたいに冒険に出てみたい!それで……友達を作ってみたい」

 子供のティランノスが目を輝かせながら言った。その姿が今の私と重なって胸がチクりと痛んだ。

「冒険に出るといい!友達なんてすぐに沢山できるし、世界は面白いからな!」

 そう言ってティランノスの頭を撫でる。現在のティランノスからは考えられない、眩しい笑顔がこぼれる。


 二人の姿は波紋と共に消えた。


 次に現れたのは見知らぬ男の人とお父さんだった。金と銀の混じった長い髪。すぐにティランノスのお父さんだと分かった。


「パゲアの地下資源について、発表は避けようと思う。パゲアが混乱することは避けたい」

「そうしてくれるとありがたい。資源が減りつつある地上の者には喉から手が出るほどの代物しろものだからな」

 二人は腕組をして、難しそうな表情を浮かべる。

「調査を依頼した友人にも言っておく。『ここは我々が手を出して良い場所じゃない』ってな」

 お父さんのお道化た仕草しぐさにティランノスのお父さんが微笑みを見せた。

「あの子に地上の世界を見せてやるのはどうだ?俺が連れて行ってやるから」

 あの子というのがティランノスのことだと直ぐに分かった。お父さんの申し出に、ティランノスのお父さんは小さく首を横に振る。

「いや、駄目だ。我々はここから出ることを許されていない。地上の者に変わり、自然の声を聞き、共に生きるのが我々の使命だからな……。

 ティランノスのお父さんは眉を下げて言った。

「だったら今度、うちの娘。ライリーを連れて来よう!あいつは一番冒険家に興味をもっているからな!」

 お父さんの明るい声にティランノスのお父さんが目を丸くする。

「必ずまたパゲアに来よう!陰で自然とヒトを繋ぐ、誇り高いパゲアの人々を見せてやりたいものだ!」

「ありがとう。……オズウェル、君がパゲアに来てくれて良かったよ」

 私は二人が固い握手を交わすのを私は涙を浮かべて見下ろしていた。

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