第34話 絶望
「今頃島の人達は海賊たちが捕らえているだろう。島の人達の命のために大人しく私に従ってもらおうか」
ティランノスは舌打ちする。同時に赤く光った光虫が羽音を立てた。まるでティランノスの怒りを表しているようだ。
「君たちは自然を
そう言って手にした銃を真っすぐにティランノスに向けた。
「……俺達は自然を操ってるんじゃない」
ティランノスは銃口を向けられながらもエドガーさんを強くにらみつける。
「自然から力を貸してもらってるんだ。争いのために使うわけないだろう」
島の人達のことだ。不思議なその力で海賊たちにも
「それに自然は人間の争いには中立の立場にいる。自分の身が危険だと悟れば手を貸すことはないだろうよ」
パゲアは辿り着くことすら困難な幻の島だ。外に助けを呼んでも来てくれる人はいないだろう。
「ライリー。何もしないのなら君に危害は加えないよ。少なからず君には恩義があるからね……。ここまでたどり着いてくれて本当に助かったよ」
私は膝をついたまま、地面を見る。ここにきてやっと気が付いた。
「私……利用されてたんだ」
パゲア島の位置情報を取得するために、エドガーさんは私に冒険家の道を進ませた。だから今まで支援してくれたのだ。そのことに気が付いた瞬間、私の心を大きな黒い波が取り込む。
その事実に打ちひしがれ、体が動かない。ティランノスのこと「守る」って言ったばかりなのに。
いつもの私はどこに行ったの?海賊兄妹の時はあんなに強気でいたのに。動け!……動け!頭の中で念じてみても足がすくんで動けない。
お父さんが死んでいた、しかも冒険の相棒だったエドガーさんのせいだったという事実が私の元気を根こそぎ奪っていった。しかも私が冒険に出たせいでパゲアの人達が危険な目に遭っている。ショックなことが多すぎて、立ち向かう勇気が……でない。
「……と言ってもさすがの君でもこの状況じゃあ何もできないだろう。安心しなさい。大人しくしていればお母さんの元に送り届けてあげるから」
エドガーさんの穏やかな声が恐怖と自分の情けなさを増幅させた。
顔を上げてティランノスを見ることができない。「守るから」と言っておきながら何もできない私に呆れて失望しているはずだ。
「そんな子供に何もできるはずない。それにあいつは外から来た部外者で、パゲアとは全く無関係だ。……分かったらとっとと要求を聞かせろ」
わざと
「それじゃあ、祭祀長君。『儀式』に向かおうか」
儀式と聞いたティランノスは一瞬、固まったようにみえたけれど大人しくエドガーさんに従った。
私を置いて二人は洞窟を出て行く。私はただ、背中に銃口を当てられながら連れていかれるティランノスを見送ることしかできなかった。
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