第33話 影の冒険家

「驚いたよ。まさか地下資源の探索作業中にパゲアの洞窟と繋がるとは……。これが島に入るためのカードキーみたいなものなんだろう」

 エドガーさんが自分の首にかかっている黒い球のネックレスを眺めながら言う。

「何度かこの石を利用してパゲアに上陸していたんだ。オズウェルの証言と照らし合わせながら地質とこの洞窟を調べた。そうしたら面白いことが色々と分かってね……。やはり私の推測は正しかった。パゲアは人類にとって希望の島だ!」 

「どうしてエドガーさんが……お父さんを?友達なのに……」

 絶望する私をよそにエドガーさんが落ち着いた声で話を続ける。

「勘違いしないでほしい。オズウェルを殺したのは海賊だ。私と言い争いをした後、船から逃げようと海に飛び込んだところを血の気の多い海賊共が銃で撃ったんだ」

 私はエドガーさんを見ることができなかった。ただ、洞窟の地面に膝と手をついて衝撃に耐えるしかない。

 お父さんがいなくなったのは……冒険の相棒だったエドガーさんのせいだった。信じられない、信じたくもない事実に私は耳を塞ぎたくなる。

 私がここまで来られたのは、お父さんが生きているという希望があったからだ。その希望が断ち切られ、私は混乱した。

「よくもオズウェルを!もしや……俺の父さんを殺したのも……!」

 かろうじてエドガーさんとティランノスの会話を聞く。

「たまたまこちらの世界に繋がった時、この洞窟で鉢合わせてしまってね。騒ぎにするわけにはいかなかった……」

 カチャリと物騒な音が耳に届く。

「こんなことまでして。パゲアをどうするつもりだ?」

「パゲアの存在を公にし、地下資源の開発を進める。それが人類の進むべき道だからだ」

 静かながらも熱のこもった声に私は遅れて顔を上げる。

「パゲアの長。……ティランノスだったかな?君には重要な役割がある」

 そう言ってエドガーさんは先ほど取り出したじゅうをティランノスに向けたのだ。私はただ、その光景をぼうっと眺めることしかできなかった。

「お前ひとりで何ができる?」

 ティランノスは銃を向けられても強気で言い返す。

「残念ながら私ひとりじゃないんだ。今頃海賊共が上陸している頃だろうよ」

 その言葉を聞いて私はすぐに海賊兄妹を思い出した。どうやら海賊たちのボスはエドガーさんのようだ。

「でたらめを言うな!離島流りとうりゅうが流れているはずだ!そんな簡単にパゲアに上陸できるはずがない」

「それができるんだよ。クジラを利用して上陸すればいいのは我々も知っている。偉大な冒険家が色々教えてくれたからな」

 そう言ってエドガーさんは私の方を見る。

 当たり前だ。パゲアでの冒険のことを相棒のエドガーさんに報告しているのだから。

「私が新たに開発した小型の潜水艇は生き物に取りつくことができるんだ。タコのような吸盤だから取りつかれたクジラも気が付かないだろう。私も7年間、今日のために準備をしてきたんだよ」

 エドガーさんが私に笑みを浮かべる。どうやら7年間、目的に向かって努力してきたのは私だけではないようだ。

 洞窟の出入り口からふよふよと光虫が飛んでくる。赤い光に私は目を見開く。やがてそれは周りの光虫にも伝播でんぱしていき、洞窟の中は赤い光で満たされた。

「島に侵入者が入ったのは……本当なのか?」

 光虫が島の異常を知らせてくれたらしい。ティランノスの焦った顔を見て私の背中に冷たい汗が流れる。

 



 

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