第28話 オズウェルとティランノス

「オズウェルもお前が打ち上げられていた浜からひょっこり現れたんだ。俺はその時初めてパゲア以外の人間を見た」

 私はその場に立ったままティランノスの言葉に耳を傾けていた。

「5歳の時だ。その時は何も分からなかったから……パゲア意外の人間を見てただ嬉しかった。オズウェルは俺とよく遊んでくれたし、地上の見たことのないテクノロジーを教えてくれた。見知らぬ土地から来た人のことを知って仲良くなりたいと思ってたんだ」

 ティランノスは顔をせる。その考え方は今の私と同じだった。それなのにそれが間違いのように話す。

 まるで過去の自分を恥じるかのように。

「だけどそれが間違えだったんだ。こんなことになるなら……オズウェルがパゲアに来なければ良かった。何も知らないままでいれば良かったんだ」

 そう言って握りこぶしを作るのが見えて、私は思わず叫んでいた。

「間違ってなんかない!」

「間違ってたんだ!」

 ティランノスの悲痛な声に私は黙り込む。

「クロノサ神が二人を殺したんだ。……外の人間と馴れ合ったから、神の怒りに触れた。ただでさえ地上の者に対する自然から怒りの声が多いんだ。

クロノサ神が怒っていてもおかしくない。自然と対話し共生する。自然とヒトの架け橋になるのが俺達、パゲアに住む者の役目だから……」

 そう言ってティランノスは唇を噛む。

「地上の世界に興味を持ったから……ライリーを助けたからきっと俺は父さんのように神に殺される。それが怖いんだ……」

 怖がっているティランノスの姿が痛ましくて、励まそうとした私も言葉を失う。

 ティランノスがお父さんを亡くして一人でパゲア島を守って来たのだ。その苦悩は想像を絶するものだったと思う。

 不安な気持ちのままだと物事も悪い方に考えてしまいがちだ。いつの間にか自分の中で架空の敵を作ってしまう。今のティランノスがまさにその状況にあった。

 何とかして勇気づけてやりたい。何も怖いものなどないのだと言ってやりたかった。

 私はパゲアの人じゃないからかもしれないけど、とても神様のせいだとは考えられなかった。確かにティランノスは不思議な力を使えるから、神様がひょっこり顔をだしてもおかしくないんだけど……。

 同じタイミングで2人が姿を消すことがあるだろうか?ティランノスのお父さんが亡くなったというのを聞いて私の胸に冷たい風が吹く。嫌な予感を振り払うように声を上げた。

「そんなことにはならないよ!」

 ティランノスが弾かれたように顔を上げた。飴色あめいろの目が月明かりで不思議な色彩を放つ。

「人との出会いを悪というようなのは神様じゃない!だって、いつの時代だって人は新たな人と出会うものだし、冒険が無くなることはないから!」

 私は呼吸を整えると一息に言った。

「何が起きてるか分かんないけど……。私がティランノスを守るから!」

 胸を張って答えると、ティランノスは疑り深い眼差しで私のことを見た。




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