第27話 語らい(3)

「ライリー様、どちらへ?」

「どちらへって、ティランノスのところへだよ」

 私が得意そうに言うと、側に居たディノニクさんが慌てる。

「祭祀長に?やめなさい!君は分からないかもしれないが祭祀長はこの島で上に立つ者だ。あまり気安くしてはいけないお方で……」

「落ち込んでいるなら励まさないと。だって、祭祀長で偉いから誰も側にいてあげなかったんでしょう?」

 その言葉に周りにいたパゲアの人達が黙り込んだ。

 きっとティランノスは上の立場にいるせいで思い詰めているに違いない。

 行ったところで何ができるか分からない。私はティランノスに嫌われているから追い出されるかもしれない。だけどこのまま何もせず、動かずにいるのはもっと嫌だった。

 私はティランノスの部屋の前でノックをする。

「失礼します。ライリーです」

 部屋の中から反応はない。私はめげずにドアに向かって話しかけ続けた。

「私、ティランノスと話がしたいの!私のお父さんのこと、あなたのお父さんのこと教えてよ!」

 少し間があった後、ギィと少しだけドアが開く。どうやら入っても大丈夫なようだ。私は果物の入った器を抱えながらゆっくりと部屋に入った。

 部屋は、私の部屋の3倍はある。床や天井には白地に青色の幾何学模様が描かれ、美しかった。部屋の奥の大きな窓の前にティランノスは腰を下ろしていた。ドアを開けたのは恐らく壁の木だろうと予測する。

「オズウェルはどうした」

 ティランノスが顔を引き攣らせながら質問した。まるでずっと口にするのを躊躇っていたかのようだ。

「お父さんは……パゲア島に立ち寄った後、7年前から行方不明なんだ。だから、私がこうして探しに来た!」

 ティランノスは飴色あめいろの瞳を丸くさせると、やっぱりというように床に視線を落とした。

「死んだんだな」

 私はティランノスの言葉に一瞬息が止まる。なんてことを言うんだろう。私は急いで強く否定した。

「まだ死んだって決まった訳じゃ……!」

「俺も死ぬんだ。クロノサ神の怒りを買って。父さんやオズウェルみたいに……」

「え?」

 かすれた声でそんなことを言うので私は黙り込んでしまう。ティランノスの背中はどこか寂しそうでかすかに震えているようにも見えた。

 私はそばにあった机の上に果物が入った器を置くと、ティランノスのことを真っすぐに見る。

「ねえ……7年前、この島で何があったの?ティランノスは何が怖いの?」

 私の問いかけにティランノスは力なく振り返ると、重苦しそうなその口を開いた。

 

 


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