第26話 語らい(2)
「そうだ!地上の者がパゲアに来たせいで
話を聞いていた別の男の人が声を上げる。
「またクロノサ神の怒りを買って私達の誰かが犠牲になったらどうしてくれる?」
「自然を壊し尽くした者がパゲアの土を踏まないで!」
祭りのような賑わいが私への非難へと変わっていく。
私は耳を塞ぐことなく、憎まれているという事実をちゃんと聞く。ここで怖がって耳を塞いでしまったら、何も分からないままだ。
度を過ぎた利益を追い求めた結果がゴミで溢れ、汚染されたカラフルな海である。動物と植物が猛スピードで姿を消していく。
それが私の生きている世界の現状だ。
「ごめんなさい!遅いと思うけど、私達も生活を見直しつつあります。元通りにできないかもしれないけど……自然の声に耳を澄ませようとしてます。自然達にもごめんなさいって言えたら言いたいです」
深々と頭を下げた私の姿を見てパゲアの人達の罵声が止まる。
「お父さんがいなくなったのも、パゲア島のことを知らないままでいるのも嫌で……。パゲア島のことを知りたいです!私のこと、嫌っていても憎んでもいいからパゲア島のこと、自然のことを教えてください!お願いします!」
私にできることは今感じている素直な気持ちを伝えることしかない。様子を見かねたヴェロさんが助け舟を出してくれた。
「ライリー様を責めてもどうにもならないでしょう。私達、パゲアに生まれた者の役目は地上の者を恨むことではないはずです。私達は……自然とヒトを繋ぐために存在しているのです。……そのことを忘れてはいけません」
穏やかなヴェロさんの凛とした声は館に力強く響いた。その後で、ディノニクさんが優しく私の背を叩いてくれた。
「気を取り直して。オズウェルのことを教えよう。もしかしたら何か分かるかもしれないからね」
「はい!お願いします」
最初の頃よりも私を取り巻く視線が柔らかくなったのを感じた。……皆が理解してくれたというわけではないけれど。少しだけ私の想いが通じたらしい。
「なあなあ。冒険家のおっちゃんってさ。祭祀長と仲良かったって母ちゃんたちが話してなかった?」
「そうそう。先代とも仲良かったしね」
昼間出くわした男の子2人が私にそんなことを教えてくれた。ごちそうを手にご機嫌そうだ。昼間のように睨まれなくて良かった。私は安堵しながらも驚きの事実に目を丸くする。
「ティランノスが私のお父さんと?」
「ええ。オズウェル様はよくティランノス様と遊んでおられました。ティランノス様も快く思っていたはずですが……」
ヴェロさんは言葉を区切ると、気まずそうに続けた。
「先代が亡くなられてから、人との関りを避けるようになってしまいました。元々、祭祀長という立場があるので周りの者と距離はあったのですが……。
思い詰めたような表情が多くなって、最後に笑顔を見たのが思い出せないぐらいです」
私は思わず黙り込んだ。お父さんを亡くし、パゲア島の代表のようなことをしている。色んな重荷を背負っているはずだ。
「そういうことなら……よしっ!」
私はヴェロさんの悲しそうな表情を見て決心する。
果物の入った器を片手に持つと立ち上がった。
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