第23話 祈りの洞窟
木の根元の土がぼこぼこと持ち上がり、木が生き物のように左右に動いた。そして一本の真っすぐな道を作り出したのだ。
「この道を行けって言うの?」
私に自然の言葉は分からない。今だって自然に助けを求めたわけじゃない。なのに、「こっちだよ」と言われている気がした。
心臓の鼓動がまた速まる。悔しくて悲しい気持ちでも、見たことのない世界に飛び込むワクワクが打ち消した。
そうだ。私は冒険家だ。
向かうべき場所は決まってる。迷うことなんてなかった。
誰も見たことがない、ワクワクする方へ!お父さんだって笑いながら未知の世界を指さしてそう言うはずだ。
顔上げて、木達が作り出した道に足を踏み出した。
木達が作った道の先にあったのは……ぽっかりと開いた洞窟だった。ごつごつとした岩肌が見える。その出入口付近。人が座れるぐらいの岩に誰かが座っているのが見えて、私は立ち止まった。
「……ティランノス?」
金と銀が混じった長髪。間違いなくティランノスだ。
泣いてる?あの気の強そうで、いかにもしっかりしたような子が?
暫く呆気に取られて眺めていると、視線に気が付いたティランノスが目を見開いた。その後で目を細めて私に冷たい視線を向ける。
「どうしてこんな所にいるんだよ。
「いや……あの。そんなことより、大丈夫?泣いてたみたいだけど」
私は館を飛び出してきたのを誤魔化しながらもティランノスを気遣う。泣いているということは余程のことがあったのだろう。少しだけ心配になる。
「ああ……これは別に。俺の涙じゃない」
ティランノスが自分の目元を拭いながら言った。
「別に強がらなくても……何かあった?私で良ければ話してよ」
私が心配そうにティランノスの肩に触れると、思いきりその手を払われてしまう。
「だから、違うって言ってるだろ!さっきまで自然の声を聞いていたから……」
「自然の声?」
首を傾げる私にティランノスがため息を吐きながら答えた。
「俺達は自然の声が聞こえるんだ。
だから、悲しんでるのは自然であって俺じゃない。まあ、地上の者にとっては理解できないだろうけどな……」
「……すごい!」
私は興奮気味にティランノスに詰め寄っていた。予想外の反応だったのか。ティランノスの肩が大きく揺れる。
「洞窟の中はどうなってるの?どんな声が聞こえるの?あ、今入ってもいい?」
「洞窟は祭祀長しか入ることができない。声と言っても音声じゃないんだ……」
ティランノスは真面目に答えていたのを不意に止めてしまう。続きを期待していた私は分かりやすく肩を落とした。
「どうしてそう簡単に受け入れる?「自然の声」なんて馬鹿げてると思わないのか?お前達にとってパゲアは未知の領域なんだろう?得体の知れない俺達が怖くないのか」
ティランノスが声を苛立った声を上げる。
「最初は島の人達に
私の笑顔にまたティランノスが居心地悪そうに視線を落とす。
「……分かったら。館に戻るぞ。そろそろ辺りが暗くなる」
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