第22話 思考の森

 逃げ込んだ森の中で私は膝を抱えて座り込んだ。パゲア島に到着して間もないというのに、気分は底まで落ちていた。

 スクールの子達の仲間外れにする視線はまだ理解できる。私が変わり者で、目立つのが気に入らないのだ。だけど、パゲア島の人達はどうだろう。私が外から来たというだけで嫌悪していた。

 どんなに微笑みかけても、話しかけてもぬぐい去れない何かがある。それが何なのか分からなくて、私の心はまた沈む。

 お父さんはどこに行っても必ず友達を作っていた。だから私も、まだ見ぬ世界の人達と友達になりたい。知らないことをたくさん教えて欲しいと思ってたのに現実は散々だった。友達どころか会話することすらできない。

「こんなことなら……館を出なければ良かったのかな?」

 私の問いかけに誰も答えてはくれない。代わりに虫の鳴き声が聞こえてくる。

 このまま館を出ずに、ヴェロさんから話を聞けば傷つかずに済んだのかもしれない。多分、ヴェロさんは物知りで優しいから色々と話してくれたはずだ。

「ううん。そんなはずない。だって、その場に行って見て、考えるのが冒険家だから……」

 私は腕に抱えた自分の膝におでこをぶつける。人から話を聞くだけでは意味が無いのだ。

 いつもの元気を取り戻せ!私!

 パゲア島のことを知りたいんでしょう?お父さんの足取りをたどるんでしょう?

 自分の両頬を叩くと、私は勢いよく立ち上がった。一歩でも歩きださなければ冒険は始まらない。それに、一カ所にとどまっているのは落ち着かなかった。

 また元の場所に戻るのも気が滅入めいるので、私は森を散策することにした。今頃島の中心部は私を捕まえようと多くの人が集まっていることだろう。

 私は落ちていた長い枝を拾うと地面に線を書きながら進んだ。森で迷わないようにするためだ。線が消えてしまっても大丈夫なように数メートルおきに木の幹につたを結んで目印にする。

 歩きながら、何故パゲア島の人達が私を嫌っているのか考えた。

 こういう難しい問題を考える時、少しずつ分かるところから考えていくのだ。例えば、子供達が口にしていたこと。

「あれだけ自然を破壊しておいて……って言ってたよね。自然と共に生きるパゲアの人にとって環境破壊を繰り返す外から来た私は……悪人なのかも」

 カラフルに染まった海、ゴミの海域を思い浮かべた。それが本当だとしたら「私は何もしてない!」と言ったことが恥ずかしく思える。すでに私はパゲアの人達に悪いことをしていたんだから……。

 私がパゲア島に来ることは間違っていたんだろうか。だとしたら……私の7年間はなんだったんだろう。

 これから私は……どこに向かえばいい?

 マイナス思考に支配されそうになった時だった。首にかけたネックレスが一瞬だけひらめいたのだ。

「わっ!」

 瞬きすると共に驚きの声を上げる。そのすぐあとで地面が揺れた。私はよろめきながらも、なんとか転ばずに体のバランスを取る。

「何……これ……」

 目の前で起こっている現象げんしょういた口が塞がらない。

 だって……周りの木々が動き始めたんだから。

 


 


 

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