第20話 パゲアの者
館全体は木のいい香りがして心地良い。私はそわそわしながら木の椅子に腰かける。
ヴェロさんは手際よく飲み物の準備をしてくれた。木の器に入ったそれはお茶のようでハーブティーの香りがする。
「どうぞ。パゲアで採れるハーブのお茶です」
「おいしい!」
私は大きな声を上げた。一体この島のハーブはどんなものなのか。頭の中で想像図を描く。そんな私を見て、ヴェロさんはくすくすと上品に笑った。
「好奇心が旺盛なんですね」
「はい!パゲア島のことで色々知りたいことがあって……。まずは魔法について教えてください!」
ヴェロさんは私の正面の椅子に座ると笑顔を崩さずに話してくれた。
「パゲアの者はこの世の生きとし生けるものの力を借りることができる……貴方達、地上の者達とは異なるヒトなのです」
「じゃあ、今木の枝で上の階に運んでくれたのはヴェロさんの力じゃなくて、自然の力ということですか?」
私が夢中になって話すと、ヴェロさんが瞬きを繰り返しながら頷く。
「ええ……そうです。私達は自然に呼びかけて、手助けしてもらっているのです。私達も手助けをしてくれた彼ら彼女らに礼を尽くします。共に生きる家族のようなものです」
自然が家族……。新しい考え方に私の目は輝いた。思わず椅子から立ち上がってヴェロさんに一歩近寄る。
「自然に呼びかけるってことは……植物や動物たちの感情が分かるんですか?」
「分かりますよ。だから時々私達の希望を聞き入れてくれない時もあります。館の植物たちの機嫌が悪ければ、部屋に上がれない時もあるんですよ」
「へえー!面白い……!」
心臓の鼓動が速まる。
ネットにもない。本にもない。未知の世界に私はいる。その事実に信じられないぐらい感激した。
「じゃあ、じゃあ
私がヴェロさんに迫ると、ヴェロさんは困った表情を浮かべる。
「ライリー様、落ち着いてください。私は逃げも隠れもしませんから……。本日はもうお休みになられてください。日が落ちたら、お食事をお運びしますので」
「あ!ごめんなさい!つい……。分かりました」
ヴェロさんは素早く椅子から立ち上がると、一礼して部屋を出て行ってしまう。私は耳をそばだたせ、ヴェロさんの気配がなくなったのを確認するとゆっくり窓を開けた。
ゆっくりなんてできるわけない!一秒でも沢山、見たことのないものを見たい。私は外から人に見られないようにそっと窓の下を見下ろした。
そこそこ高さがあるものの、木だ。窪みや太い枝が無造作に伸びているのが分かる。私は足場を確認してにんまりと笑った。
私、木登りが得意なんだよね!
ヴェロさんと話していればパゲア島の大体のことは分かるだろう。だけど、それだけじゃ物足りない。
実際にこの目で見て、匂いを嗅いで、どんな感触がするのか。五感でパゲア島を知りたいんだ!
大丈夫、ご飯の前に戻れば問題ない。
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