第18話 冒険家と祭祀長

「どういうこと?命懸いのちがけでここまで来たのに!」

 私が怒っているのにも関わらず、ティランノスは鼻で笑った。

「パゲアの者達はお前達、地上の者と馴れ合うつもりはないからだ。とっとと出て行ってもらうからな」

「出いて行けって言われたも……船はどこかへ行っちゃったし……」

 ティランノスは深いため息を吐く。

「お前と一緒に浜に流れ着いてた。見てないのかよ」

「……嘘!」

 私は絶句した。あんなに大きくて激しい波だったのに。船があれば帰れるのだと思うと安心した。

「他に……他に流れ着いた船はなかった?」

 私はユジさんや海賊たちを頭に思い浮かべる。

「さあ?打ち上げられてたのはお前だけだよ」

 ティランノスの答えに私は項垂うなだれた。あれだけ海が荒れ、クジラが泳いでいたのだ。せめて命だけは助かっていて欲しいと心の中でいのる。

 周りの状況が分かり始めると自然と頭の中で様々な疑問がいてくる。

「あのクジラは何?それにあの特殊な潮の流れ……この辺りでは普通のことなの?」

 質問を続ける私にティランノスは鬱陶うっとうしそうに右手を払ってみせた。

「うるさい!お前はいちいち聞いてくるな!」

「それは無理だよ。ここは知らないことだらけで全部知りたいんだから!」

 私がにっと歯を見せて笑うと、ティランノスは飴色あめいろの瞳を大きく見開いた。決まり悪そうに咳ばらいをすると、おずおずと私に視線を向ける。

「……そう言えば、お前。名前は?」

「ライリーだよ!宜しく!」

 やっと歩み寄ってくれる気になったか!私は嬉しくなってティランノスに右手を差し出す。お父さんも言っていたけど、人との関係は何事なにごとも友好関係を築くことから始まる。まずは笑顔と握手あくしゅだ。

「……そうか」

 ティランノスはそれだけ言うと、私の右手を見下ろしてまた前に向き直った。

 残念ながら握手は無視されてしまったが、まだ出会ったばかり。これからゆっくり友好を深めていけばいい。

 ここでお父さんの痕跡こんせきを探しながら、島を探検する!私は新たな使命に燃え上がった。ユジさんに助けてもらった恩もある。しっかりこの目でパゲア島を見なければという気持ちになった。

 まずは島の人達と仲良くなって、パゲア島がどんな島なのか知る必要がある。

 私は足取り軽やかにティランノスの後ろについて走った。


「何これ?すごーい!」

 ティランノスの後ろで私は声を上げた。何本もの木が重なって、一本の大きな木に見えるそれは芸術作品のようだ。とても人間が生み出せるようなものには見えない。

 何本も並んだ木はねじりあってお互いを巻き込んで様々な形の葉や枝を天高く伸ばしている。

 多分、この島の中で一番大きな建物で……大木たいぼくだ。

 木の幹には扉が取り付けられており、それを扉の前に立っていた男の人が開けてくれた。

「そんなところで立ち止まるなよ」

「ごめん。つい、珍しくって……」

 あまりの待遇たいぐうの良さについ気後きおくれしてしまう。ティランノスがこの島でどれだけの良い立場にいるのかよく分かった。



 

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