第17話 祭祀長ティランノス

「パゲアに辿り着くなんて……子供とはいえ、怪しい奴」

「また先代せんだいのようにろくでもない目にあったらどうしてくれる?」

「気味が悪いねえ……」

 歓迎とは程遠い出迎えを受ける。それでも私はパゲアという言葉を聞き逃さなかった。

「パゲア?ここって、パゲア島なんですか?」

 私は思わず声を上げた。嘘……あの海域を越えて、私は遂に辿り着いたんだ!幻の島、パゲアに!

 私が急に元気を取り戻したので周りの人達が身構える。

「迷いこんでしまったんでしょう。あるいは遭難してしまったか……。とにかく拘束こうそくを解いてやりなさい」

 金と銀の入り混じった長髪の人が一声かけると近くに立っていた男性が地面に手をかざし、何かをねんじた。たちまち私を捕まえていた枝が土の中に消えていく。

 何?どういう仕組み?

 私は自分を捕まえていた木の枝が帰って行った穴を覗く。

「この者は暫く私のやかたで監視も含めて預かることにする」

 周りの大人達はまだ納得していないようだったけど、手を合わせて片膝をつくと少女にも少年にも見える子に向かって頭を下げた。

「分かりました……ティランノス祭祀長さいしちょう

「祭祀長?」

 私は首を傾げた。祭祀というのは儀式を行う、宗教的な存在なのだろう。そのトップが私と同じ年ぐらいの子供なの?私はぼんやりと祭祀長……ティランノスと呼ばれた子の横顔を眺めた。

「……大人しくついてきなさい」

 ぎろりとにらまれて、私は思わず肩をすくめる。私は首を縦に振って静かにうなずいた。

 私はティランノスの背を追いながら島の光景に目を奪われていた。

 自然豊かで、木や雑草に至るまで見たことのない姿のものばかり。樹齢何千年かも分からないぐらいの巨大な木がそこらじゅうにたくさんあるのだ!

「……すごい。こんな大きな木、見たことない」

 家は木の中をくり抜いて住居としていたり、葉っぱで出来ているものもあった。石の家もあって目移りしてしまう。自然物を生かした個性的な家が立ち並んでいるのだ。

 すごい、中はどうなってるんだろう!見てみたい!

 私の足が家の方に引き寄せられていると、つたが伸びてきて私の右足に巻き付く。

 危うく転ぶところだった。

 見るとティランノスが振り返って此方に右手をかざしている。蔦はティランノスの足元から伸びていた。

「ねえ、これは何?さっきも気になってたんだけど、パゲアの人達は魔法が使えるの?」

 私が絡まる蔦をもろともせず目を輝かせて問いかけると、ティランノスはふんっと鼻を鳴らした。

「地上の者。しかも迷子に教えることなんてねえよ」

 先ほどまでの大人ぶった口調から一転。スクールにいた子達と変わらない物言いに私はカチンときた。話し方や仕草しぐさを見るにどうやらティランノスは男の子らしい。

 初めて見た時は大人っぽくて綺麗な子だと思っていたが、今は生意気な子供にしか見えなかった。

「あんただって子供のくせに!私は立派な冒険家ですー。それと、『地上の子』って何?パゲア島だって地上にあるじゃん!」

「冒険家……?それにそのネックレス……」

 ティランノスは私の疑問を無視して驚いた表情を浮かべる。

「……あの冒険家の子供か?」

「私のお父さんのこと、知ってるの?冒険家のオズウェルを!」

 もしかするとティランノスはお父さんの行方を知っているかもしれない!目を輝かせながらティランノスを見た。

「だったら……とっととパゲアから出て行った方がいい」

 ティランノスは私との会話を中断するように、そう冷たく言い放った。

 

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