第14話 暴れる海

 島が来る、なんて自分で言っておいて変な言い回しだなと思った。だけどそうとしか言いようがない。

 海だけだった空間に突然、陸地が現れたんだから。私の目には目の前が裂けて、島が顔を出したように見えた。

 有り得ないことだけど目の前で起こっているんだから信じるほかない。

「あれが……パゲア島?」

 私は目をいっぱいに開いて様子を伺う。深い緑色の木々に包まれ、島の内部はよく見えない。

 船が大きく揺れる。潮が引いていくせいで島から船がどんどん遠ざかっていく。私は慌ててレバーを前に倒し、流れに逆らう。

 ずっと追い求めていたあのパゲア島を見つけたんだ。ここで逃すわけにはいかない!

「ちっ。レーダーとソナー、GPSも全部ダメになっちまったけど……。最後にいた場所はボスに転送できてるはず。島でお宝探しは無理そうだね」

 そう言うとアンヌが私に銃を向けてきた。

「作戦変更だ!船を奪うよ」

 不規則な波の動きにアンヌの水上バイクが大きく揺れる。私はアンヌをにらんだ。船のバランスを取るので精いっぱいな状況で更に船を奪うなんて……無茶すぎる。

 荒れ始める海に、船を奪おうと銃を向ける海賊。

「姉ちゃん!何だか可笑しいぞ!」

「早くこの海域からぬけよう!」

 オルとハイレの声が響く。

「さあ、あんたらはあたしたちに付いて来るんだよ!」

 波に翻弄されながらもアンヌが声を張り上げた。私の考えはもう、決まってる。

「やだね!」

 そう言って思いきり舌を出すと船を島に進め始めた。アンヌの顔が真っ赤に染まる。

「命が惜しくないのかい?この状況で島に上陸するのは無理だよ!分かったらあたしに……」

 アンヌの言う通り。この状況で島に近づくのは危険だ。そもそも島が上陸を拒むように、島とは反対方向の大波が起こっている。船のバランスを取るので精一杯だ。

 だけど私の視線の先には島があった。

 7年間、求め続けた幻の島だ。こんなところで諦めるわけにはいかない。それに、売られるのが分かっていて海賊たちについていくのもおかしな話だ。

「私は、パゲア島に行く!!だから……さようなら!」

 そう言ってアンヌ達の船の間を通り抜ける。

 島に辿り着くのも、海賊たちの手から逃れるのも今、この時しか無い!私はハンドルとレバーを握りしめた。

「待ちなさ……」

 背後で銃声が聞こえて、振り返る。

 ユジさんの船がアンヌの水上バイクの前に飛び出したのが見えた。そのお陰で銃弾は私のどこにも当たってない。

「島へ向かうんだ!ライリー!」

 久しぶりにユジさんの声を聞いた。海賊たちに囲まれていた時、私達は会話を制限されていた。結託けったくして刃向はむかわれないようにするためだ。

 私はユジさんの行動に呆然ぼうぜんとした。だって……ユジさんだってパゲア島を目指してたはずなのに。私と同じ、冒険することが夢だって言ってたのに。

「ユジさん!」

「僕のことはいいから!早く行きなさい!」

 ユジさんの必死な顔を見て、私は唇を噛み締めた。そのまま船の操縦そうじゅうに集中する。

「ライリーの邪魔をするなら受けて立つ!」

 温厚なユジさんとは思えない言葉に驚きながらも胸にじんわりとした温かさと、寒々とした気持ちが入り混じる。

「やっちまえ!」

 三人の標的が私からユジさんに変わった。


 

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