第13話 異変

 大きな異変が起きたのは町を出て30日ほど経った頃。海賊たちと出会って8日ほど経っていた。その日は満月の綺麗な夜だった。

 私はこのままおびえて言いなりになっているのも嫌だったのでアンヌに問いかける。

「どうしてこんなことするの?」

 私とユジさんが従順じゅうじゅんなこともあって、手荒てあらな真似はしてこなかった。武器を持っているからこその余裕だろうか。だからこの質問にも嫌な顔せずに答えてくれた。

「生きるためさ。まあ、大きな大陸に住む。めぐまれたあんた達には分からないだろうけどね……。あたしらにとってはこれが仕事だから。冒険家が冒険するのと同じ」

 アンヌの明快めいかいで、迷いのない答えに私は何も言い返すことができない。

 そうなのだ。海賊集団、シャーク達には罪悪感というものがほとんど感じられない。爽やかささえあった。

 海賊たちは人から奪うことを日常として生きている。その大きな思考の違いに私は衝撃を受けた。

 お父さんはどうやって自分とは違う考えの人達と上手く渡り歩いてきたんだろう?どうして武器を向けてきた人と友達になれたんだろう。

 分からない。

 だけど私の夢を奪われていい、というわけじゃない。アンヌ、海賊たちの行為を許すことはできない。

 私は船と一体化しながら、これからの身の振り方を考えていた時だった。

 突然、ディスプレイに砂嵐すなあらしが入るようになったのだ。

「これって……」

 私はお父さんの手記を思い出す。島に近づくと電子機器類が使用不能になる。ということは……パゲア島が近い!

 私達は船を止め、辺りを見渡した。

「ほら!お前達気を引き締めな!そろそろ来るよ!」

 アンヌの力強い声が響き渡る。私は自分の腕に鳥肌が立つのを感じた。そう、本能で何かが来るのが分かる。

 船が少しずつ後ろに流れていった。潮の流れが急激に変化している。

 私は空を見上げた。

 ああ、そうだ今日は満月。月の力が一番働く時だ。ザザザザと黒く染まった波が不気味な模様を描いて消えた。潮が物凄い勢いで引いていく。

 ゴゴゴゴゴと巨大な何かが近づいて来る音が体全体に響いてきた。

「何?何が起きてんだい?」

「姉さん!何だかまずいよ……」

「姉ちゃん!船がやべえ!」

 海賊の弟たちが騒ぎ出す。ユジさんも、何が起きているのか分からないという風にただ目の前で起こる光景に目を見張っていた。

 私は無意識に迫りくるものの正体についてつぶやく。

「島が……来る」

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