第12話 海賊たちの海域

「逃げようなんて思わないことだね。この辺りの海域はあたしらの縄張りなんだから。他の仲間も別の仕事でそこらにいるからね。それと少しでも救難信号を送ろうとしたり下手な動きを見せたら……命はないよ」

 そう言って真っすぐに銃口の長い銃を突き付けて来る。どうやら海賊たちの海域に入ってしまったらしい。

 この見晴らしのいい海を水上バイクのスピードから逃れるのは無理だ。銃で船に穴でも開けられたら……たまったものじゃない。

 どうやらここは大人しく海賊たちの言う通りにしなければならないようだ。

「そこの男もだ!俺らを見たからには最後まで付き合ってもらうからな」

 ユジさんもオルと呼ばれていた男に銃を突きつけられている。そして顔に傷のある男、ハイレは私達の後ろに付いていた。

 こうして私とユジさんは海賊たちに三方を囲まれながらパゲア島を目指すことになった。

 私は小型船を操縦しながら息が詰まるような気持ちがする。今までの何のしがらみもない自由な船旅とは違う。

「それにしても、子供であるあんたがどうしてパゲア島に?大人しくネットの映像でも見てればこんな目には遭わなかったのにねえ。これで冒険ごっこにもりたでしょ?」

 私の右手側を走るアンヌが嫌味を言ってくる。私は頭に来た。相手は武器をもってるし、本当に危ない人だ。

 だけど、私の夢に悪口を言われることだけはどうしても許せなかった。ハンドルとレバーを掴んでいた手を力強く握りしめる。

「私は遊びで冒険に出たんじゃない。今日のために7年も準備してきた……。命を懸けて、パゲア島に向かってる。だから……冒険に出たこと貴方達に出会ったことを後悔はしてない」

 その姿をみたアンヌは呆気にとられながらもふっと笑みを漏らした。

「言うじゃないの。さすが冒険家の娘だけはある」

 アンヌの反応を見て、話し合える人かもしれないと思ったけれどその期待はすぐに打ち消されてしまう。

「前もって言っておくけどね。ボスはあくまで位置情報だけを欲してるけどあたしらはあんたらの船が欲しい。悪いけど目的地に着いたら奪わせてもらうからそのつもりで」

 そう言って高らかに笑った。

 これが海賊なんだ。お金になるものは根こそぎ奪う。お父さんが言ってたみたいに友達になれるような雰囲気は少しも無かった。

「そもそもパゲア島なんて島があるかも怪しいんだ。まあ、もし辿り着かなくてもしっかり船は頂くからね。勿論あんたも。売らせてもらうよ」

 唇の端を引き上げて私を驚かせるようにアンヌは笑う。だけど私は怖くなかった。ここで泣いたり怖がったりしたらこの人の思う壺だ。

「あるよ。パゲア島は。必ず私が見つける」

 私の決意めいた言葉にアンヌは鼻で笑い飛ばして水上バイクをうならせた。一方、ユジさんも顔を引き攣らせながら海賊たちの指示通りに船を動かしている。

 きっとこの状況を打開するチャンスが訪れるはずだ。

 それまで負けない。必ずパゲア島に上陸してみせる。

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