第6話 豪華客船

 冒険をはじめて迎える朝。

 地平線から登って来る太陽を見て、パワーをもらう。うん、中々いい冒険のスタートだ。私は船のこじんまりとしたデッキで大きく伸びをした。

 いつ終わるかも、島が見つかるかも分からない冒険。しかもお父さんがいなくなってしまった場所に向かってる。

 怖い?不安?

 ううん、ワクワクする気持ちの方が強い。もしかしたらひょっこりお父さんが顔を出すかもしれないし。

 私は期待を胸にハンドルとレバーを握って船を動かす。

 安定した海域に出たせいか。よく使用される航路に出たところ、右手側から巨大な影が近づいて来るのが見えた。

 あれは……世界を一周する豪華客船だ!テレビで見たことがある。私は思わず歓喜した。ついでだからこの豪華客船を見ておこう。

 どうやら私の船の前を横切りそうなので、停止して通りすぎていくのを待つことにした。大きな船なので、巻き込まれないように適切な距離を取る。

 ボーっというお腹の底を震わせるような汽笛と共に船が通り過ぎた。

 船の窓からパーティドレスを着た紳士淑女しんししゅくじょたちが私の小型船を物珍しそうに見下ろす。その中で小さな男の子とその家族が私に向かって大きく手を振るのが見えて、私も思わず手を振り返した。

 豪華客船の人達があまりにも華やかで、楽しそうで……。私は急に寂しさを感じた。

 家族で過ごした日々を思い出して、顔をうつむかせる。妹と弟は今頃どうしてるんだろう。私が勝手に出て行って泣いてるかな?お母さんはきっと呆れて……怒って大変だろう。

 もしお父さんが帰って来てたら、私はお父さんと冒険に出れたんだろうか。だったらとても心強かっただろうな……。

 今まで考えないようにしていた考えが頭の中に渦巻いて、私は慌てて頭を振る。

 何を弱気になってるんだ!カッコ悪い!十二歳の誕生日と同時に冒険に出るのが私の夢で……使命だったじゃない!

 私が自分を奮い立たせているところに再び汽笛が鳴る。顔を上げて、私は口を開けた。

 豪華客船の文字旗もじはたが「U」と「W」をを表す模様の旗を掲げていたのだ。


 その旗の意味は『航海の安全を祈る』だったはず。私はさっきまでの不安が消え去っていくのを感じた。思わず口元がゆるむ。

 そうだ。これは私が行くと決めた道。だったら最後まで行ってみせる。

 しっかりと船のハンドルとレバーを握り直した。


 

 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る