第7話 冒険仲間との出会い(1)

 街を飛び出して17日がつ。小型船の操縦そうじゅうや、海の景色にも慣れてきた頃、私は汚染の少ない海域に出た。

 正直、同じ景色に飽き飽きしてきたところだ。

 冒険と言ってもずっと面白いことが起き続ける訳じゃない。目的地に向かって地道に歩みを進める時間の方がずっと長いのだ。

 確かお父さんも言ってたな……。冒険は忍耐にんたい強くなきゃできないって。その言葉の意味を今、身をもって知る。

 だから汚染の少ない海域に出た時は嬉しかった。久しぶりに見る青緑色の海にいやされる。趣味の悪いパーティドレスから、シンプルな美しいドレス姿に戻った海はやっぱり綺麗だ。

 ニュースでは年々、汚染の少ない海域が減っているという。今、目の前にある海も見れなくなってしまうのだと思うと嫌だなと思った。

 そんな穏やかな海に騒音そうおんが聞こえ始める。それは海鳥うみどり甲高かんだかい声だった。それもかなりの数だ。

 私はディスプレイに目を移すと確かに数メートル先に複数の魚影ぎょえいが見えた。それなら海鳥が魚を求めて群がっていても不思議はない。

 それだけなら航路を変えて海鳥に鉢合わせないようにするだけだったけどその中に他の小型船を見つけて驚いた。どう見ても漁をするような船じゃない。

 よく見るとオレンジ色の煙が見えた。助けを求めているみたい!このまま見なかったフリをするのは私の心が許さなかった。

 この大海原おおうなばらで人はだれしも孤独なのだ。助け合わなければならない。

 でも、どうすればいいんだろう。私は大きな音を出す船のサイレンを鳴らそうかと考えたけど鳥たちを興奮させてしまうかもしれなと思うと躊躇ためらわれた。

 一匹一匹は普通の小型の海鳥でも群れを成せば計り知れない力を発揮するはずだ。船に乗っている人が襲われて海に落とされたら……。ゾッとする。

 だとしたら他に餌があることを知らせてやればいいんだけど……。

 私は船を止めると、船に沢山乗せて来た固形の完全栄養食を手に取る。こんな小さなえさじゃ気が付かないだろうし……。

 どうすればいいか悩んで、デッキで立ちすくんでいたら私の船の近くで小さく水が跳ねた。海面で口をパクパクさせていたのは魚だった。

「え……。えさ?」

 何故か手にしていた栄養食をねだられたような気がして私は一つまみその魚にやった。

 すると魚は海に潜り姿を消す。

 ……何だったんだろう。さっきの。

 思考するのもつか、私の船の数メートル後方でぱちゃんっと水音がした。

 最初は小さな音だったのにどんどん大きくなっていく。私は目の前の光景を見て言葉を失った。

「魚の……大大大群たいたいたいぐんだ……!」

 それは銀色の体をひらめかせて飛び跳ねる魚の姿だった。数百匹、いや、数千匹はいるかもしれない。

 海の上でダンスパーティしてるみたいに海面で踊り狂ってい始めたのだ。当然、小型船に群がっていた海鳥たちはこちらに向かって進路を変える。

 私は海鳥たちが巻き起こす風にあおられながら呆然ぼうぜんとその光景を眺めていた。

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