第5話 託されたもの

 この手記はお父さんの冒険を支えてきた研究機関や会社が協力してデータ化してインターネット上で公開されている。

 背表紙に書かれていた私へのメッセージは世間に知られていない。誰にも気が付かれなかったか、パゲア島とは関係ないから見逃されたんだと思う。

 手記の主な内容は島に向かうまでの過程と、そこで起きたトラブルであり皆が知りたがっているパゲア島のことは一行で終わってしまっていた。


『パゲア島は我々人類にはもったいない、素晴らしく恐ろしい島だった』


 この一文いちぶんから更に噂が生まれた。

 パゲア島は大陸の生まれた場所だと言われている。だから、まだ見ぬ資源が眠っているのではないかと考えられていた。それに手つかずの自然も残っているとも学者たちの間で話題になっている。

 だから資源が減りつつある現代においてパゲア島は「希望の島」でもあるのだ。「人類にはもったいない」ということは本当に資源が残されていたってことだな!と解釈して喜んでいる人もいる。

 また、「恐ろしいということは、原住民に何かしてやられたのではないだろうか」という解釈をして恐怖している人もいた。

 とにかくお父さんが残したこの一文はよく分からない。

 そしてパゲア島に向かうのは冒険家だけじゃない。

 豊かな自然や資源を巡って、色んな企業や一攫千金いっかくせんきんを狙うならず者達が向かう島でもある。

 私はページを巻き戻し、パゲア島へ向かうまでの道のりを読み始める。


『……パゲア島へ近づくと電子機器が一切使用できなくなる。島はその上陸を拒むように波を起こすが選ばれし者には黒い道が開かれるだろう』


 そんな風に書かれているから、私は機器に頼らない知識や船の操作技術を学んできた。それにしてもお父さんの言い回しはよく分からない。いつもだったら分かりやすく、どんな世界だったか文章だけで想像することのできる手記を書くのに。まるで読んでいる人を迷わせようとしてるみたいだ。

 分からないことといえばこのネックレスもそう。

 私は首に下げた磨かれた黒い石を持ち上げる。綺麗な球状の石だ。ただのお土産だろうか?それにしても何でできているか分からない、不思議な雰囲気の漂う石だった。

 私は本を閉じてため息を吐く。とにかく今はお父さんの痕跡こんせきを追うように手記に描いてある方角に進むしかない。

 そのまま波に揺られながら簡易ベッドに横になると私はまぶたを落とした。不思議と心が穏やかになるのは赤ちゃんがゆりかごに揺られているのと似た感覚だからだろうな。なんて思いながら私は夢の世界に旅立った。

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