第40話真の魔女装備をゲットしたぞ!
「はっ!?はうっ!!」
私は唐突に目を覚ました。
どうやらミチェリを失ったショックのあまり、私の意識は途切れてしまっていたようだ。
(何だ!?何がどうなっている!?)
呆然と空を見上げていると、とんでもないものが私の視界に飛び込んでくる。
幾筋もの青い光が尾を引きながら空を横切っていくではないか。
あれは流れ星だ。
勝色の染料をたっぷり吸いこんだ上等な絹のような二つの月が浮かぶ夜空。それを青白い流星が切り裂くように次から次に通り過ぎていく。
それも一つや二つどころじゃない。なんという美しい光景だろう。
「……」
しばらく私は地面に膝をついたまま流れる星々の美しさに見惚れていたが、
ハッと我に返る。
そうだ、今は悠長に感動している場合ではない。
私の脳みそは今にもパンクしてしまいそうなほどにフル回転していた。
そうだ、今は流れ星どころじゃないぞ、東明(あずまあきら)よ。
ミチェリは何処へ行った。カリエンテはどうした、あの老人はどうなったんだ。
急ぎ探し出さねば。
私が慌てて立ち上がり、周囲を見渡したところ、
幸いなことに二人はすぐに見つかった。
「カリエンテ様……?」
カリエンテは全裸で倒れ伏して動かない。
引き締まった大きな尻を突き出したまま完全に気を失っているようだ。
これが夢ならばただの都合の良いエッチな展開で済んでいただろうが、残念なことにこれは現実で、カリエンテの身体には先程までの戦いで受けた傷がしっかりと刻まれていて、しかも彼女は血塗れだった。
老人はというと残った片腕だけで懸命にカリエンテの傷口の手当をしようとしているようだったが、ロクな道具もないせいか、状況は素人目に見ても芳しいものではないことがわかる。
「ちょっ、ちょ……」
私は慌てて物陰に隠しておいた荷物の中から包帯と消毒液を取り出して、老人の元へ駆け寄った。
数時間前までのどかだった村は、まるで戦場跡のように破壊尽くされていた。
しかし、幸いにも荷物の類は無事だ。
これがもしミチェリの氷の魔法で壊されていたかと思えばゾッとする。
「お、おい、ご老人、大丈夫か!」
「爺さん、俺の方は無事だ。それよりあんたの知り合いの方が大変だ!早く止血をせねば……!」
「そ、そうだな、ちょっと待っててくれ!」
カリエンテの怪我は酷い有り様だった。
全身の傷口から夥しい量の血を流している。
まるで鉄条網に絡まり身動きが取れなくなった牛のように執拗で痛々しい傷が至る所に無数につけられていた。
おまけに脇腹はバッサリと肉を割かれ、筋肉が見えかけている。
なんとまあ、酷いことだろう。こんな状態でよく戦っていたものだと感心するくらいだが、こんな傷を放置していたら長く保つまい。
私は急いで消毒をしてガーゼを当て、その上からガーゼを重ねて包帯を巻きつけていく。この世界の医学がどの程度のものなのかは知らないし、そもそも異世界の人々の肉体の構造が我々と同じかどうかもわからないが、今はそんなことを考えていても仕方がない。とにかく急ぐべきだろう。
私は医者ではないが、最低限の応急処置の知識はあるのだ。
「ご老人、あんた魔法使いらしいが、止血だったり傷口を塞ぐような魔法はないのか?」
「……悪いが、そんなものがあるならすでにやっている。俺は人殺しのための魔法以外は何も知らん。後はせいぜい身を護るための簡単な結界を張れる程度だ」
「そ、そうか……無理を言ってしまったな」
「……すまんな。結局、魔法の力などあっても、俺はまったく役に立たずじまいだ」
「いや……ご老人、そんなことはないぞ。こうして応急処置は出来たし、あんたのお陰で何とかなりそうだ」
私は一しきりの処置を終えると、改めて辺りを見渡す。
やはり村の惨状は凄まじかった。
幸いなことに村人たちは事前に引き上げていたため犠牲者はいなかったが、家という家は軒並み倒壊している。
カリエンテの剣技の余波を受けたのか、あるいはミチェリの魔法のせいか、その両方かもしれないが、どちらにせよ住めるようになるまでにはかなりの時間がかかるだろう。
私は服についた汚れを払い、老人に呼び掛ける。
「ご老人、あんたの腕の傷は大丈夫なのか?消毒でもしておいた方が……」
しかし、老人は私の言葉に応えてくれなかった。
彼は私の顔を見つめると、何とも言えない表情を浮かべている。
「……ど、どうしたんだ、ご老人?」
「……ところでアズマーキラ、あんた……いつの間に着替えたんだ?」
「へ?」
老人の言葉に慌てて体をまさぐると、私の体は先ほどまでの泥だらけの巻き藁ではなく、見慣れない衣服に包まれていた。
言われなくてもわかるはずだが、それどころではなかったのだ。
「な、なんだこれ?どうなってるんだ!?」
「……いや、それにしても……随分と良い服じゃないか、まるで宮廷にいる賢者のようだぞ。一体どこで手に入れたんだ?」
「い、いや、わからん。知らない内に勝手に着せられていて……」
私は自分の身体に纏わりつくローブのような上質な布地を指先で摘みながら戸惑うばかりだった。
雪のように汚れひとつのない生地の肌触りはまるで極上の絹のようで、ひんやりと冷たく、それでいてどこか懐かしい温もりを感じる不思議さがある。
こんな上等なもの、いったい私はいつの間に……。
だが、この服を見ていると、どうしてかとても悲しい気持ちが湧き上がってきた。
それは私の胸の奥に秘められた、忘れかけていた何かを呼び覚ますようだった。
(まさか……)
これは、ミチェリが……あの時、私に……。
呆然としている私を心配するように老人は声を掛けてくる。
「……どうした、何か気になることであったのか?」
「えっ、ああ、大丈夫だ。私はカリエンテ様の持っていた剣を取って来る!」
「ああ、それならあそこの地面に突き刺さってるぞ。なんだか禍々しい気配がしたので俺は触らなかったが……」
「わかった!ありがとう」
老人が示してくれた方を見ると、そこには確かにラ・フエンテ・デ・サングレの巨大な刃が深々と大地に食い込んでいた。
カリエンテの手から離れたその刃は、まるで黒雲の中に押し込められた太陽のように妖しく不気味な赤い光を湛えていた。
見ようによっては確かに災いを呼び寄せそうな得体の知れぬ不吉な気配を放っているようにも見える。
私はラ・フエンテ・デ・サングレを引き抜こうとグリップを握り締める。
何しろ巨大な金属の塊だ。
相当苦戦するかと思われたが、意外にもあっさりと持ち上がる。
そして、ぼこぼこと血が煮えたぎるように禍々しく輝くその刀身を見た瞬間、カリエンテに言われたことを思い出してしまった。
──……決してグリップを握ってはいけない、と。
だが、もう遅かった。
赤と黒の波紋が視界を埋め尽くす中、私は魔剣の柄を握る右手から凄まじい力と熱が体の中に流れ込んでくるのを感じていた。
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