第31話氷の封印
「爺さん、すまない。どうやら俺の手助けなんて無意味だったようだな……」
「い、いや……そんなことはないぞ!ご、ご老人がいなかったら、私はきっと……ぐすっ……」
二人が戦う様を見て、嗚咽する私を労わるように老人が口を開く。
「……爺さん、あんたは魔女に結界に閉じ込められていた。あのままだと戻ってこれなかったかもしれない……」
「……え?」
「魔女に聞いてみない限りその意図はわからないが、あんたのことをどこにも行かせたくなかったのかもしれないな」
「……そんなことはないだろう。私のような不気味な老人を……」
ミチェリは白く光る霧へと姿を変え、カリエンテを素早く取り囲むと死角から鋭い氷の槍を突き立てる。
だが、カリエンテはその必殺の一撃をまるで相手の攻撃が見えているかのように、紙一重で避け続ると、勢いよく剣を振り下ろす。
「爺さん……」
「……なんだろうか」
「あんたが無事でよかったよ」
「……あんたこそ」
ミチェリが放った氷の嵐の中、ラ・フエンテ・デ・サングレは赤い光を放ちながら渦を巻く、互いの力は拮抗しているかに見えた。老人が口を開く。
「……あのカリエンテという剣士は爺さんの知り合いなのか?」
「あ、ああ、彼女は私の、その、雇用主だ」
「そうか……羨ましいもんだな。おっぱいが大きくて……人生の最後に素晴らしいものを見せてもらった。しかし、大陸中探してもあのレベルの強さの人間はそうはいないぞ。ましてや魔女とたった一人で真っ向から渡り合うなんて、並大抵のことじゃない」
老人が残された手で指を差す。
「それにあの赤い剣だ。なんなんだ、あんな代物は見たことがない。俺も若いころは宮廷に出入りして色々な魔法の力を持つ武具を見てきたが、あそこまで凄まじいものは初めてだ」
「……あの剣か、ラ・フエンテ・デ・サングレという名前らしい」
「ラ・フエンテ・デ・サングレか……美しい名前じゃないか。しかし……あの血塗られたような刃は……」
ミチェリとカリエンテの力の渦の均衡が破れ、周囲に嵐のような風が巻き起こり、血の刃が吹き飛ばされていく。
危ない!立ってられない!老いぼれコンビは仲良くよろめき、体勢を崩すと地面に片膝をつく。そして私はそのまま地面に転がった。
「……強いな。魔女と戦うのはこれで9匹目だが、間違いなくお前が最強だ」
「へえ、魔女だと思い込んでかよわい女の子を8人殺したの間違いじゃないの?」
「……」
カリエンテは剣を握り直し、ミチェリに向き直る。その表情は見えないものの、ミチェリのことを睨みつけてるように感じた。
カリエンテを挑発するように笑うと、ミチェリは再び光る霧となって姿を消す。
「お前の名は?」
「ミチェリ」
「ミチェリ、お前はなぜ自分が魔女になったか覚えているか?」
「……さあね」
ミチェリは一瞬にしてカリエンテの背後を取ると、嵐と同時に無数の鋭利な氷柱を放つ。カリエンテは振り向きざまに赤い光を放つ刀身を振るい、氷柱を全て叩き切ると、そのまま地面を蹴って飛び上がり、空中で身をひねるようにして回転し、遠心力を乗せたラ・フエンテ・デ・サングレを振り回し、叩きつける。
「……あら」
ミチェリは氷の杖で受け止めるが、あまりの威力に杖は砕け散ってしまった。カリエンテは地面を強く蹴り、すかさず追撃をかける。
「うおぉおおっ!」
しかし、ミチェリは新たな氷の杖を取り出し、ラ・フエンテ・デ・サングレの猛然たる一撃を軽く受け止めていた。
そしてカリエンテが空いた方の手を刀身に添え、全力を込めようとした瞬間、それは起きた。
カリエンテの指先に氷がまとわりついたかと思うと、瞬く間に白い光と共に凍りついていく。
「……ッ!?」
そして気が付いた時には彼女の全身が氷に覆われていた。
カリエンテは苦し紛れに振るう拳と足にも瞬時に氷が巻き付き、動きを止めてしまう。その凶悪な冷気はラ・フエンテ・デ・サングレの切っ先まで届き、カリエンテの魔剣さえも氷の中に封印されていた。
これまでとは桁違いの冷気だ、ミチェリはこれほどの力を秘めていたのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます