サブリーダーの章

サブリーダーと呼ばれる彼の話

 サブリーダーは私の兄弟子に当たる異界研究者だ。

 本来ならばリーダーを張っていておかしくない、それだけの経験と能力がある人物であるし、きっと、他のメンバーも私と同じ意見だと思っている。

 だが、「リーダーはお前がやれ」と言って聞かなかったから、今は私がリーダーを名乗っている。本当は、いつだって彼にリーダーの座を譲っていいと思っているけれど、彼は私の背中を支える方が向いているのだから構わない、と主張し続けている。

 そういう人なのだ。昔から、ずっと。

 彼との付き合いは、それこそ私が学生だった時代にまで遡る。『異界』へのアプローチの方法を求めてあちこちを彷徨い歩いていた私に声をかけてきたのが、私の師に当たる『異界』研究の第一人者だった。そして、師の実子である彼とともに『異界』の研究に挑むことになり、そのまま今に至るというわけだ。

 その師が仲間とともに消えてしまった今、私とサブリーダーは数少ない「残された」異界研究者を集めてこの仕事をしている。プロジェクト立ち上げ当初はもう少しメンバーがいたのだが、国の意向に沿う気になれない者や、我々と上手く折り合えない者などが離れていき、元より研究者の数が少なかったこともあって、結局今の五人に落ち着いている。

 人数が少なければまとめるのはさほど難しくはないが、一方で一人に与えられる仕事はひたすらに増えていく。それでもプロジェクトがそれなりの形で回せているのは、それぞれのメンバーの働きもあるが、何よりも調整を担う彼のおかげにほかならない。私が苦手なものをことごとく彼が負ってくれているからこそ、プロジェクトは今日も円滑に回っている。

 そんな、極めて有能な彼がどうして私にリーダーを勧めたのか、という話だが。

 彼曰く「お前の図太さは上に立つのに向いてる、お上を前にして言いたいこと好き勝手言えるのは一種の才能だ。クソ不器用でおっちょこちょいで危なっかしいのも、お前に限っては『ほっとけない』と思わせる力だろ」とのことで。これは絶対に褒めてないということだけははっきりしている。

 でも、そういう私のことをよくよく理解しているからこそ、彼は「サブリーダー」として、今日もそこにいる。

 そこにいて、私の背中を支えてくれるのだ。

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