カエサルの暗殺
カエサルの暗殺の話は有名なので省略も考えましたが、どちらかと言えば定番として引用しておこうと思いました。長いです。
しかし人々はこの人の幸運に頭を下げ、轡を嵌められたにも拘らず、独裁政を不幸な内乱の休息と考えてカエサルを終身のディクタートルに任命したが、これは誰が見ても独裁政であって、その単独支配は業績責任報告を不要とした上、罷免されないという特権を持っていた。この最上級の栄誉を元老院に提案したのはキケロであるが、このとにかく人間として最大な栄誉の上に他の人々も互いに競って色々と度を越えた栄誉を付け加え、それらの決議の並外れた物々しさによって、温和な人々の眼にもカエサルを憎むべき忌まわしい人物とさせた。カエサルを憎んでいる人々さえへつらう人々に劣らずこれらの処置に協力したのは、できるだけ多くの口実を設け、できるだけ大きな非難を起させて暗殺の計画を進めようと考えたからである。
(中略)
他のものは追放になっている兄弟のために嘆願するティルリウスの口添えをするためにカエサルを迎えて椅子のところまでついて行った。カエサルは腰をおろしてその嘆願を拒絶し、相手の人々が頑強に主張するのを一人一人𠮟りつけると、ディルリウスはカエサルの上衣を両手で捉まえて咽頭のところから引き下ろした。それが凶行の合図であった。先ずカスカが剣で首のところを打ったが、その傷が浅くて死に到らなかったのは、勿論この大それた行動の手始めに取り乱したためである。そこでカエサルはその方に向き直って剣を捉まえて抑えた。打たれた方がラテン語で『不届者のカスカめ、何をする。』と叫んだのと、打った方が兄弟に向ってギリシャ語で『おい、手をかせ。』と言ったのと同時であった。こういう風に事が始まったので、一味に加わっていない人々は非常に驚いてこの行動に震え上がり、逃げ出したり助けたりすることは愚か、声を立てる勇気さえなかった。暗殺を企てていた人々は銘々抜身の剣をかざしたので、カエサルは周りを取巻かれ、どっちを向いても打ち下ろして来る剣を顔と眼に受けて野獣のように狂い回りながら皆の手の間に揉まれた。誰も彼も我先に止めを刺さなければならなかったからである。そこでブルートゥスもカエサルの腿の付根に一撃を加えた。ある人の話によると、カエサルは他の相手に対しては身を防いであちこちと体を躱し、大声に叫んでいたが、ブルートゥスが剣を振り上げるのを見ると(有名な『我が子よお前もか』という言葉は、紀元2~3世紀『ローマ史』に見える。)顔を上衣で覆い身を投げ出して、偶然かそれとも暗殺者に押されたためか、ポンペイウスの立像の置いてある台の下に倒れた。血潮がいっぱいその台を汚してその足許にカエサルが横たわり無数の傷を受けて喘いでいる様子は、ポンペイウス自身が政敵に対する復讐に立ち会っているように見えた。受けた傷は23か所と言われ、暗殺者たちはこの一つに体にこれ程多く傷を浴びせようと逸ったので、多くのものは互いに傷つけあった。
凶行の合図の上衣の掴み方がイメージしづらかったです。解説です。
カエサルの暗殺は、B.C.44年3月15日、ポンペイウス劇場のポンペイウス像の前で、カッシウス・ブルトゥスらによって決行された。終身の独裁官に就任したのが2月9日であるから、僅か1月余りの終身独裁官であった。
三頭政治の僚友ポンペイウスを追い落すきっかけとなったB.C.49年のルビコン渡河以降、彼は、事実上ローマの独裁者だった。B.C.46年に3回目の独裁官に就任したときには、任期を10年に延長している。B.C.45年には将軍の称号を与えられ、カエサルの神格化が進められ、彼の誕生日は祝祭日となって、その生まれ月をユリウス(英語のjuly7月)と呼ばれた。王として振る舞い、元老院議員には座ったまま応対した。
共和主義者が、このカエサル暗殺に傾いたのは、当然であった。けれども、共和主義者・元老院の権威によりすがっていた閥族派は当時のローマを依然として古い都市共同体の政治の枠のなかでしか見る目をもっていなかった。カエサルは元老院閥族派が属州を私的な財産であるかのごとく収奪し、ローマの発展を支えた中小市民の無産化になんの政策も解決手段も持たない共和政に対して、属州を含めた世界国家の理念を持っていた。
幻想の共和政に執着していたブルトゥスらは、このカエサルを理解できなかった。それが暗殺をひきおこしたのである。
たぶん、この場面はどこかで映像化されてそうです。
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