グラックス兄弟の改革
この頃、中小農民の没落が問題になっているみたいですね。グラックス兄弟の改革についての資料を長いですけど引用します。
だが、彼の弟ガイウスは、ある小冊子のなかで次のように書いている。ティベリウスがヌマンティアに向う途中、エトルリアを通った際、いかに土地が荒涼としているかを見て、またそこで耕したり家畜を追ったりしているのが、よそから連れてこられた外国人からなる奴隷であるのを知ったとき、そのときに初めて心に懐いた政策が、この2人の数知れぬ禍の始めとなったのだ、と。だが、彼の熱心さとか名誉心なるものを、最も強く焚きつけたのは他ならぬ民衆自体であり、彼らが、柱廊や家の壁や記念建築物に文章を書き刻んで、貧民に国有地を取り戻してくれるようにと、この人に呼びかけたのである。
とはいえしかし、ティベリウスはすくなくとも自分一人でこの法案を起草したのではなく、徳性と名声の点で第一級と目された市民たちを相談相手としたのである。そのなかには大神官のクラッススや、法学者でその当時執政官(前133年)だったムキウス=スカエウォラや、ティベリウスの舅のアッピウス=クラウディウスがいた。
なお、あれほどの不正と貪欲とに対する法案が、これほどに優しく穏やかな形で提出された例はこれまでにもなかったようである。つまり、法に従わないため罪に問われるべき人、そして罰金を支払った上違法の形で享有している土地を放棄せねばならぬ人、こういう人たちでも、その不正に占有していた土地から去る際、代償まで受け取った上で、その土地に、援助を必要とするローマ市民をいれるようにと命じられたにすぎなかったからである。
しかし、是正策がこれほど寛大であったにもかかわらず、民衆は過ぎ去ったことは忘れてしまい、今後不正が行われずに済むようになったことに満足しきった。だが他方、金持の大土地所有者は、貪欲さからこの法律を怨み、怒りの念と敵愾心とからその立法者を憎んだ。それで、彼らは、ティベリウスが土地の再分配に手を染めたのは、国政の攪乱をめざして現状をことごとく変革しようとするためだ。といって、民衆がこの法案を承認するのを思いとどまらそうと企てた。
しかし、そうはうまくゆかなかった。というのは、ティベリウスの弁舌たるや、邪悪な事柄でさえ美しく飾りたてられる程にすばらしいものであったのに、まして正しい立派な根本理念のためにその弁舌で戦っていたからである。民衆がそのまわりに押し寄せている演壇に登って、ティベリウスが貧民のために論ずるときには、いつもその弁舌は際立っていて敵するものがなかったほどである。彼はいった。イタリアの野に草を食む野獣でさえ、洞穴を持ち、それぞれ自分の寝ぐらとし、また隠れ家としているのに、イタリアのために戦い、そして斃れる人たちには、空気と光のほか何も与えられず、彼らは、家もなく落着く先もなく、妻や子供を連れてさまよっている。しかも全権を握る将軍は、戦闘に際して、墳墓と神殿を敵から守るのだ、と兵士を励ましては嘘をついているのだ。というのも、これほど多くのローマ人の誰一人として、父祖伝来の祭壇も先祖の宗廟も持っていないからだ。彼らは、他人の贅沢と富のために戦って斃れ、世界の支配者と謳われながら、自分自身のものとしては土くれだに持っていないのだ、と述べたのである。
解説です。
グラックス兄弟は、ポエニ戦争後のローマが抱えこんでいた問題の解決にあたった。ハンニバル戦争で痛めつけられた南部イタリアは、大土地所有がもとから発達した地域であったから、戦後はいっそうひどくなっていた。また、ローマ周辺の公有地も負債を償還するために私有地として売却され、大土地所有の発展はローマの共同体の分解を促進する役割を果たした。しかも、中小農民の没落がローマの軍事力を弱め、戦争を忌避する事態が現れるに及んで、古きローマの理想は崩壊の危機に直面した。グラックス兄弟は、ローマの名門に生まれ、良くも悪くも、ローマの伝統を重んじる気風に育った。
したがって、グラックスの改革は、リキニウス法に沿って古法に則した形で公有地を制限し、中小農民に再分配することによって国防力の担い手たる彼らの再建を企図したのである。
さまざまな抵抗にあった兄ティベリウスは、同僚の護民官を罷免させたり、ペルガモンのアッタロス3世の遺領の扱いで元老院を無視したこと、護民官の再選を企てるなど、ローマの伝統・古法を無視したため、保守派の抵抗にあって悲劇の最後を遂げた。
弟ガイウスの政策に至っては、結果として騎士階級の台頭を招き、貧民層も社会の最下層に固定化することになってしまった。彼らの意図とは別に、ローマはその後、内乱の1世紀を迎えるのである。
グラックス兄弟は、2人とも悲惨な死に方をしたらしいですね。
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