『アエネーイス』
わたしは歌う、戦いと、そしてひとりの英雄を
神の定める宿命のままに、トロイアの岸辺を
かつて逃れてイタリアの、ラウィニウムの海の辺に、辿りついた英雄を
かれこそ大地に大洋に、神の力にあやつられ、ことにはげしいユーノーの
忘れぬ怒りを身にうけて、いたくさまざまにさいなまれ
また戦争で数知れぬ、苦難に耐えてついた後
ローマの都を建設し、故郷の祭祀をラティウムに移し
これより後々に、さてはアルバの長老や、高くそびえる城壁の、ローマの都が生まれ出る。
これは『アエネーイス』の初めの数行でローマ建国の伝説と理想が美しく歌われています。
これから古代ローマに入るのに、この詩の引用から始めましょう。
さて今こちらに双の目を、向けて未来のローマ人
汝のあとをそこに見よ。ユーリウス=カエサルそこにいる。
カエサルはじめユールスの、血を引き将来天軸の、
もとまで高く上るべき、後裔たちもいる、そこに。
こちらの丈夫、かれこそは、その出現の約束を、
汝が常に耳にする、かのアウグストゥス=カエサルぞ。
神とせられるユーリウスの、あと継ぐ彼はその昔、
サートゥルヌスが統治した、土地ラティウムに黄金の、
時代を再び建設し、その帝権の拡張は、
及んではるか星々の、めぐる範囲のまだ向こう、
天を支えるアトラスが、星ちりばめた天軸を、
肩になって回転を、与えるところ、太陽と、
年のめぐりの運行の、道ある位置よりまだ先の、
ガラマンデースの棲む国と、インドの国の向こうまで、
届くであろう、このために、すでに今さえカスピイーの、
国のみならず黒海の、マエオーティスの土地までが、
神の答える予言きき、予期する彼の来襲に、
早くもおびえているのみか、七つにわかれるニール河の、
河口の土地も怖じさわぐ。かのヘルクレスは青銅の、
脚もつ牡鹿を射倒して、エリュマントゥスの森に棲む、
野猪を倒して森鎮め、レルナの水蛇に矢を向けて、
慄い上がらせたとはいえ、事実地上をこれほどに、
遠く至ったのではない。葡萄のの蔓を手綱にし、
意気揚々と車駆り、ニューサの峰より虎どもを、
おうバッコスもその行程、アウグストゥスに及ぶまい。
解説です。
『アエネーイス』からの抜粋、ラテン文学の最高峰に挙げられるこの作品は、ホメロスと並ぶ古典古代の代表的作家であるヴェルギリウス(B.C.70~B.C.19年)の作品である。
未完の作品といわれ、ヴェルギリウスの生前には発表されなかったが、その出来栄えは評判だったらしく、アウグストゥス帝も関心を寄せていたという。
その内容は、12巻、約1万行に及ぶもので、トロヤの英雄アエネーイスが、トロヤ陥落の後、幾多の苦難をへてイタリアへ辿り着き、土着の王トゥルヌスを倒して、ここにローマ発展の礎を築いたという伝承をうたったもの。しかし、単なる伝承にとどまらず、ローマの理想が織り込まれ、神に約束された発展が、帝政の成立によって実現せんとしたことがうたわれている。アウグストゥス帝のこの作品に対する関心もそこにあったようだ。
こんな翻訳の引用でラテン文学最高峰だというこの作品の魅力が伝わるかわかりませんね。
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