第26話 たぶんお屋敷に入ってからずっと震えてる
RPGでもアクションでも、最上階にはボスがいるってゲームのお約束だよね……。
「うぅ……」
今すぐにでも帰りたい。
私は3階へ続く階段をのぼりながら、もう何度目か分からない弱音を吐く。
この階段暗すぎ。
空気もやけに冷たいし。
のぼる度にギッ……ギッ……って鳴るのもやめて欲しい!
「やだぁ……」
天然のホラー演出にいちいちビクつく私。
「あたしがついてるから大丈夫だよー」
「はいぃ……」
もうホント頼れるのはナディアちゃんだけだ。
この手を離したら私死ぬかも。恐怖で。
そんな状態で、ついに階段をのぼりきってしまった。
「広っ!」
お屋敷の3階はまるで体育館みたいな広々空間になっていた。
端っこに少し机や棚が残されているだけで、あとは壁も仕切りも何もない。
これはちょっと予想外。
お屋敷の中にこんな空間があるなんて驚きだ。
「ここ、何の場所だったんでしょう?」
物置らしき空き部屋は1階にあったし。
そもそも物置にしては広すぎる。
「これだけ広いと運動もできそうだよね」
「確かに、そうですね」
私も最初体育館みたいだなとは思った。
ここに住んでた冒険者さんが鍛錬に使ってたのかな?
だとしても、そのために3階丸ごと使うのってすごい気がする。
家族に反対とかされなかったのかな?
私たちは3階の中央へ向かって歩を進める。
それにしても3階もやっぱり暗い。
キョロキョロと窓を探してみると、壁のかなり高い位置にあった。
高い位置についてるのは、うっかり割らないための配慮かな?
それは別にいいのだけど、長年の汚れと植物の蔦のせいで光が入ってこないのが問題だ。
こんな真っ暗闇の中でもし幽霊に出くわしたら……。
「……ダレ…ダ」
「ぴ」
………………心臓が止まるかと思った。
「今のって……!」
「あうあぅ」
目を輝かせるナディアちゃんと、まともに喋ることもできない私。
そんな私たちの正面――真っ暗な部屋の奥から冷気が漂ってくる。
いや、違う。
漂ってくるんじゃなくて、むしろ集まって……!?
やがてそれはシュルシュルと衣擦れのような音を立てて人型に固まる。
現れたのは長い金髪に、青いローブを着た少女だった。
いつの間にか彼女は、その整った顔立ちが見て取れるほど明確な輪郭を帯びていた。
ただし、全身が半透明に透けてるけど。
「あぶぶぶ」
泡噴きそう。
今かろうじて私が立っていられるのは、ナディアちゃんに支えられてるからだ。
「おおーっ! 本物のユーレイだぁ!」
その彼女は幽霊を見れてすごく目を輝かせているけど。
「―――」
幽霊少女がまぶたを開く。
現れたのはサファイアのように青い瞳。
「……タチサ…レ」
彼女の低く冷たい声が脳裏に響く。
さらに。
「《ブリザリ》」
えっ魔法!?
私が驚くと同時に、少女から氷結の嵐が吹き荒れる。
「わっ!」
「きゃあ!」
何で幽霊が魔法を使えるのー!?
まさかゴーストの上位種リッチ!?
そんなの不夜城とか死者の楽園とかにしか出ない奴でしょ!?
「ナナナディディアちゃ、ちゃ……」
震えて上手く喋れない。
それでもなんとか肩を揺すって、彼女に帰ろうとアピールする。
「うん。任せて!」
ナディアちゃんは頷く。
そして、背中のバトルハンマーを抜き放って構えた。
「あたしがあいつを大人しくさせるから! カナデさんは後ろにさがってて!」
ええぇぇええぇぇ!?
言うが早いか、ナディアちゃんはそのままリッチめがけて突撃していく。
「おりゃー!」
「……!」
リッチは振り下ろされたハンマーをサッと避ける。
おそらくそれに光属性がエンチャントされてるのに気づいたのだろう。
「《レイスガ》」
「わわっと!」
突き立つ氷の刃を、ナディアちゃんは間一髪で避ける。
リッチの討伐推奨レベルは約Lv50。
Lv28になったばかりの彼女が倒すのは難しい。
このままじゃナディアちゃんが……!
「うぅぅ~~……!」
床にへたり込んでいた私は、プルプル震える脚を叱咤して無理やり立ち上がる。
魔法さえ当たれば私ならリッチくらい消し飛ばせるはず……!
私がナディアちゃんを守らなくちゃ……!
「《ホーリィ……」
そうして私が光の魔法を放とうとした時。
「あっ! カナデさん、ダメー!」
「えっ……?」
こちらへ飛び込んできたナディアちゃんが、私のことを押し倒した。
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