第27話 幽霊屋敷の昔話
「痛たた……」
頭ぶつけた~。
「ナディアちゃん?」
私は自分に覆い被さる少女に声をかける。
「ナディアちゃ……?」
まさかケガして……!?
「ぷっはー!」
と、そこでナディアちゃんが跳ね起きる。
どうやら私のローブが絡まって起きれなかったらしい。
ケガがないのはよかったけど……。
「どうして止めたの?」
あのまま魔法を撃ってればリッチを倒せてたのに。
「だってカナデさんが魔法撃ったら家が壊れちゃうでしょ?」
「え? いや、そうですけど……」
戦いながらそんなこと気にしてたの?
「って!?」
まだリッチを倒してないんだった!
私は慌てて起き上がり、杖を構える。
「……」
しかし、リッチは困惑した様子でこちらをジッと見ていた。
追撃してこない?
「あっ! やっと大人しくなってくれたね」
ナディアちゃんは立ち上がって、弾んだ声でリッチに話しかける。
「ナディアちゃん? モンスターに話しかけても……」
「え? でもこの子ユーレイでしょ?」
「え?」
話が噛み合ってない?
私たちはお互いに首を傾げる。
と。
「……ヘンな人たち」
「!?」
話しかけられた!?
ビビッた私はナディアちゃんの後ろに隠れる。
「ねぇねぇ、君ってここに住んでた冒険者の人?」
ナディアちゃんはリッチ――幽霊少女に尋ねる。
私はまだ「え?」って思ってたけど、尋ねられた相手は小さく首を縦に振った。
「やっぱりー! 魔法使いっぽいもんね。名前は何ていうの?」
「……リーズ」
ナディアちゃん何で普通に話してるの?
いろいろついていけない私は、チョイチョイと彼女の肩をつつく。
「あの……ナディアちゃん、あの人の正体とか全部知ってたんですか?」
「ううん。でも、この家に全然無関係の人はここでユーレイやってないんじゃないかなーと思って」
言われてみれば確かに。
「あなたたち……私を追い出しにきたんじゃないの?」
リーズさんは訝しげな表情で腕組みをしている。
「あれ? 普通に喋れるんだね」
「さっきのは演出。片言の方がビビって帰ってくれるから」
実際、効果てきめんでした。
でも今は多少恐怖が和らいだ……私は少し顔を出して、彼女に話しかける。
「あの……どうしてリーズさんはここで幽霊に?」
「……少し長くなるけど」
リーズさんはそう言って、自分の身の上を話し始めた。
昔、この屋敷は冒険者同士のシェアハウスだったらしい。
全員が同じパーティだったわけではないが、皆仲よく暮らしていたのだとか。
「じゃあこの3階って皆の訓練に使ってたんだね」
「そうね。雨で冒険に出られない日とかは、よく皆でここに集まってたわ」
リーズさんは懐かしそうに思い出を語る。
そんな日々が続いたある日、ギルドから大規模な討伐クエストが全冒険者に発注されたらしい。
おそらく『ボーダレス』で開催されたレイドボス戦イベントの内のどれかだろう。
ここに住んでいた冒険者さんたちも全員参加し……そして、全滅した。
「それでその後、気づいたらここで目を覚ましたってわけ」
「なるほど……」
たぶん不動産屋さんがこの家の資料を紛失したのもその頃だ。
きっとレイド戦直後はギルドどころか、東都全体が大混乱だっただろうし。
「それから数年は静かだったんだけど、ある日何も知らない一家が引っ越してきてね」
「それで?」
「私を見て大パニック。大騒ぎして翌日には出ていったわ」
リーズさんは肩を竦める。
何でもない風に言ってるけど、自分の姿を見て人が逃げていったのは……ショックだっただろうなぁ。
その時の彼女の気持ちを思うと心臓がキュッとなる。
「似たようなことが何回かあって、今度は冒険者が私を倒しに来て……向こうが問答無用だったから仕方なく追い返したのよ」
そうこうしている内に、不動産屋さんも手に負えない幽霊屋敷ができあがった……と。
「だから私たちを見た時も攻撃してきたんですね」
「……言っておくけど、ちゃんと手加減してたからね?」
それを聞いてナディアちゃんがにししっと笑う。
「だよねー。あたし隙だらけだったもん」
「あなたもだいぶ加減してたでしょう。身の程知らずにも」
「え~」
そっかー……ナディアちゃんは最初からリーズさんを説得するつもりだったんだ。
思えば戦う時も「倒す」じゃなくて「大人しくさせる」って言ってたし。
家が壊れちゃうのを心配してたのも、彼女を気遣って?
「それで結局あなたたちは何しにここへ来たの?」
リーズさんが私たちに改めて尋ねてくる。
「あたしたちも引っ越し目的だよー。幽霊を何とかすれば、ここに住んでいいって言われてー」
「……なら、やっぱり私は追い出されるのね」
嘆息の音が聞こえる。
「わ、私は別にほかの物件でも全然……」
このお屋敷に対する恐怖はもうないけど、彼女を追い出すのは気の毒すぎる。
と、そこでナディアちゃんがふっふーんと笑って。
「そのことなんだけどさ~」
彼女はそう言って、とある提案をした。
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