第25話 牛歩捜査(主に私のせい)


 2階に着いてしまった。


「なななんか1階より怖い気がすすする」

「気のせいだってば~」


 うぅ、帰りたいよ~。


 そうだ。

 せめて幽霊が出てきてもいいように……。


「《エンチャント:光》」


 私たちに光属性を付与。

 これで幽霊から身を守れると思う。


「ありがとー」

「い、いえ」


 引き続きナディアちゃんにひっつきながら、私たちは2階の廊下を歩く。


 2階は東西に廊下が伸び、左右に扉が並んでいる。

 ここに住んでいた人たちの個室みたいだ。


 とりあえず、各部屋を覗いて回ってみる。


 しかし、東側の4部屋には何もなかった。

 残っていたのはせいぜい埃くらい。


 私としては安堵しかないけど、ナディアちゃんは少し退屈そうだった。


 次は西側の部屋を見に行く。


「おーい、誰かいませんかー?」

「ナナナディアちゃんっ、本当に誰かいたらどうするんですか!?」

「だって何にも出てこないしさ~」


 ホラー映画だったらその油断は死亡フラグだからね!?


「ん……何だろあれ?」

「ヒィッ!」


 ナディアちゃんが何か見つけちゃった!?


 私はビクビクしてしまうが、彼女が床から拾い上げたのはただの小瓶だった。


「これポーションの空瓶じゃない?」

「そ、そうみたいですね」


 古いものだが、この見た目とラベルはショップで売ってるポーションだ。


「ここに住んでたのって冒険者なのかな?」

「どうでしょう? 一般の人でもポーションは買えますし」

「でも割高じゃない?」

「確かに……」


 飲むだけでいろいろ治せるポーションは一般的な薬より高い。


 とはいえ、もしもの時のために1本くらい買い置きする家庭もありそうだけど。


 可能性だけならいろいろあって、今の時点じゃ結論は出なさそう。


「まあいっか。次の部屋見てみよ」

「はい」


 ひとまず空瓶は置いといて、次の部屋に向かうために廊下に出る。


 と、顔に何かくっついた!?

 しかもベタベタする!?


「わわわ! 何なにナニなんですかー!?」

「カナデさんっ!」


 もう何がなんだか。


 私はギュッと目を瞑り、必死に隣のナディアちゃんに抱きつく。


「取ってー取ってくださいこれぇ!?」

「落ち着いて。大丈夫だから!」


 ううぅぅぅーーー!


 私はブルブル震えながら彼女にしがみつく。


 そのまましばらくそうしていたら、段々落ち着いてきた。


「ただの蜘蛛の巣だよ。怖くないよ」

「……本当ですか?」

「ホントホント」

「じゃあ……取ってください」

「いいよ」


 そう言うとナディアちゃんは、私の顔からベタベタするものを丁寧に取ってくれた。


「ほら、取れた」

「……」


 恐る恐る目を開けると、すぐ傍にナディアちゃんの顔がある。

 目が合うと彼女は軽く微笑んだ。


 なんだか猛烈に恥ずかしくなってきた。


「……あ、ありがとうございます!」


 口早にお礼を言って、彼女から体を離す。


 顔が熱い。

 なんて醜態を晒してしまったんだろう。

 今更だけど、今のはさすがに年上としてどうなのってレベルだった気がする。


「カナデさん、もう平気?」

「……はい」

「ん。じゃあ行こっか」


 ナディアちゃんはこんな私に呆れもせず、再び手を差し伸べてくれる。


 うぅ、そのやさしさが身に染みるよぅ……。


 私はおずおずと彼女と手を握り、引き続き残りの部屋を調べていった。


 また連続で何もない部屋が続いたけど、最後の部屋には家具らしきものが残されていた。


 ただパッと見、それが何なのか分からず私は首を傾げる。


「何でしょうこれ……傘立て?」

「いや、剣立てじゃないかな」

「ああー」


 言われてみれば、それは剣を鞘ごと立てかけておく台に見える。


「それじゃあやっぱりここって冒険者さんが住んでいたんでしょうか?」


 こんな立派なお屋敷に住んでいたとなれば、さぞ高名な冒険者だったんだろう。


 ……でも。


 それなら前の家主を不動産屋さんが知らないものだろうか?


「それにしてもユーレイ出ないね~」

「ヒッ!?」


 考え事してたら、ナディアちゃんがまた不吉なこと言う~。


「そんなの出なくていいですよ~!」

「でも、ユーレイ倒さないとここに住めないよ?」

「それはそうなんですけど……」


 本音を言うとこんな家には絶対住みたくない。


 だからナディアちゃんには悪いと思いつつ、私的にはこのまま何事もなく終わって欲しい……だけど。


「それじゃ次はいよいよ3階だね」

「は、はい……!」


 そう、まだ3階が残ってる。


 3階へ続く階段は廊下の西端にあった。

 今の時間帯では陽が窓から入らないせいか、階段自体がやけに薄暗く感じる。


 それこそこの先に本当に何かが待っているような……。


 うぅ~~どうか神様お願いします。

 物件ならほかを探します。

 お金も私が出します。

 なんなら教会にも寄付します。

 だから最後まで何も出さないでください。


 私は心の中にお祈りしながら、ついに最後の階段をのぼり始めた。


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