第23話 アンデッド退治の依頼は頑なに避けてました
翌日。
私たちは早速不動産屋さんを訪ねた。
「空いている貸家ですか」
「はい。なるべく広いところで」
「ご予算の方はいかほどで?」
「これくらいで……」
私が提示した予算を見て、担当さんは渋い顔をする。
やっぱり少し厳しいかな。
ふたりで家賃を折半するなら、あまり高いところは借りられない。
本当は私が全部出してもよかったんだけど……それをナディアちゃんに言ったら。
「けど何でもカナデさんにお金出してもらってったら、あたしがヒモかママ活してるみたいじゃない?」
「そ、そんなつもりじゃないよー!」
というわけで断られてしまった。
別に貯金もあるし、お金のことは気にしなくていいのになぁ。
いざとなれば『ボーダレス』の金策手段なんていくらでも知ってるし。
……あれ? この考え方がママ活なのかな? い、いや、本当にそんなつもりじゃ!?
「部屋が広ければ構いませんか?」
「えっ!? あ、はい! 大丈夫です」
担当さんは物件資料をパラパラめくり、とあるページを開いてみせる。
「この築50年の風呂なしアパートでは?」
「……ほかにないですか?」
ごめんなさい。お風呂は欲しいです。
あとさすがに築50年はちょっと……。
「カナデさん、やっぱり今の宿のままでよくない?」
「絶対ダメです。私もナディアちゃんも女の子なんですから!」
今回ばかりはナディアちゃん相手でも譲れない。
こういうことは危ない目に遭ってからでは遅いのだ。
私はもちろん嫌だし、彼女にそんなことに巻き込まれて欲しくない。
そのためなら最悪、こっそり私が多めにお金を出してでも引っ越しを決める……!
私が静かに決意を固めていると、ナディアちゃんが「ふーん……」と呟く。
「ねぇねぇおじさん」
彼女はテーブルに肘をつくと、担当さんに向かって身を乗り出す。
「あたしたちソロの冒険者なんだけど、困ってることがあったら解決するよ。それで家賃の代わりにならない?」
「はぁ……」
担当さんは訝しげにメガネをかけ直し、私たちを値踏みするように見る。
「ちなみにレベルの方はいかほどで?」
「あたしは28ー」
「……240です」
「はぁ、28に240ですか……240!?」
一瞬流しかけた担当さんが目を剥いて私を二度見する。
「はっはい!」
こういう反応をされると毎回ビクッとなってしまう。
西都では私のことは知れ渡ってたから、あんまり驚かれるとかなかったから余計に。
「しょ、少々お待ちいただけますか」
担当さんは事務所の奥へ引っ込む。
「なんだか上手くいきそうだね」
ナディアちゃんはにししっと笑う。
「ナディアちゃん、ああいう反応が返ってくるって分かってたんですか?」
「だって三桁レベルのソロ冒険者だよ? 誰だって縁を作りたいと思うもん」
「はえ~ナディアちゃん交渉上手ですねぇ」
思わず感心してしまう私。
というか、そんな交渉材料になる存在だったんだ私。
「お待たせしました」
事務所の奥から担当さんと、もうひとり年配の男の人が出てきた。
「失礼します。私、ここの店長を務めているデガンと申します」
「は、はい」
「おふたりはソロ冒険者をされているとお聞きしました。失礼ですが、冒険者カードを確認させていただいても?」
あ、これレベルが本当か確認されてる。
さすがにそのくらいは私にも分かったので、黙ってカードを差し出した。
デガンさんは受け取ったカードに視線を落とす。
その後ろでさっきのおじさんが驚いた顔をしていたが、デガンさんはただ頷いて。
「ありがとうございます」
と、笑顔でカードを返してきた。
「おふたりで住める貸家をお探しとのことでしたが、条件に合う物件がひとつございます」
「本当ですか?」
すごい。ナディアちゃんのひと言であっという間に話が進んでしまった。
が。
「ただその物件……実はいわくつきでして」
急に声のトーンを落とされ、私はピシッと固まる。
「い、いわくつきって……まさか?」
「はい――出るんです」
慄く私を見て、店長さんが神妙に頷く。
出るって……当然アレだよね?
「~~~!」
私ユーレイとか怪談とか苦手なのに!
喜びから一転、恐怖で背筋が一気に冷える。
やっぱりダメ。
どんな家か知らないけど、やっぱり別の物件に……。
「分かった。そのいわくってのを解決すればいいんだね?」
「えっ!? ナディアちゃん!?」
「はい。無事に解決していただければ、そのまま住んでいただいて構いません」
「あ、あの……」
「オッケー! それじゃ早速行こっか」
あれ? あの、話がトントン拍子に進んで――
――で、気がついたら私は郊外にポツンと建つ大きなお屋敷の前に立っていた。
「それではお気をつけて。問題が解決しましたらご連絡ください」
「はぁーい。まぁ任せてよ」
ナディアちゃんが頷くと、店長さんたちは一礼して去っていく。
あとには私たち2人だけが残された。
「ナナナディアちゃん!? どっどうして引き受けちゃったの~!?」
「だってこれが店長さんからの依頼でしょ」
「あ……そっか」
そういえば「困り事を解決する代わりに家賃を何とかして」っていう話だったっけ。
「それにユーレイ屋敷って入ったことないんだよね!」
「あー……」
好奇心刺激されちゃったかー……。
私は改めて目の前のお屋敷を見上げる。
見た目はたぶん3階建て。
洋風な造りで、いかにも幽霊の出る洋館といった感じ。
綺麗な状態だったらさぞ素敵なお屋敷だったんだろうけどなぁ……。
しかし、今は全体的に手入れがされてないのも相まって、非常に不気味。
せっかくのお庭も草がボーボー。
敷地を囲む柵と門扉は若干錆びてキィキィ鳴っている。
……入りたくないよぉ。
「カナデさん、行くよー?」
「あっ! ままま待って待ってナディアちゃん!?」
いつの間に先に進んじゃってたの!?
私は大慌てで彼女を追いかけ、お屋敷の門扉をくぐるのだった。
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