第20話 ペガサスは馬なのか鳥なのか、これが分からない
「ひやぁぁぁーーー!!!」
飛んでる飛んでる飛んでるー!?
魔法でも空は飛べるけど、自分の意思と関係なく宙に浮くってとてつもなく怖い!
しかも襟首を咥えられてるだけなので、体がぷらんぷらん揺れる。
幸い襟元が緩い服なので首は絞まってないけど……とにかく怖い!
脱出したいけど自分を咥えるペガサスを攻撃したら自爆しちゃう。
なんとかペガサスが襟を離してくれたら……!
「カナデさーん! だーいじょーぶー!?」
半泣きになっていた私の耳に、ナディアちゃんの声が届く。
涙目で地上を見るが、ペガサスの群れが邪魔で彼女の姿がよく見えない。
「たーすーけーてー!」
私はそれはもう情けない声で見えない彼女に助けを求める。
「カナデさんがどこにいるか見えなーい!」
その返答に一瞬絶望しかけるが。
「周りのペガサスどかせるー?」
続けて届いた声に、彼女には何か考えがあるのだと悟った。
「やってみまーす!」
周りにいるペガサスを散らすだけなら!
「《サンダーレイン》」
私は雷の雨を喚ぶ。
「ぶひひんっ!?」
「ひぃーひひん!?」
慌てふためくペガサスたちは、蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ惑う。
お陰で視界を遮るものがなくなった。
「いっくよー!」
と、ナディアちゃんが振りかぶるハンマーの先端には、なんとミクちゃんが乗っていた。
「《ラリアットハンマー》!」
ブンッ!!
フルスイングされたハンマーから、ミクちゃんが射出される。
彼女は私とペガサスめがけて、弾丸のように飛んできた。
そして。
「《スティール》」
彼女のスキルが、ペガサスから私を盗み出す。
「ブヒヒヒンッ!?」
ペガサスは怒りの雄叫びを上げ、自由落下する私たちを追いかけてくる。
「カナデおねーさん!」
「うん!」
さっきは情けないところを見せちゃったけど、今やるべきことは分かってる。
「《サンダーボルト》」
ミクちゃんにお姫様抱っこされながら、私は雷の嵐をペガサスめがけて放つ。
稲光の暴風が直撃し、呑み込まれたペガサスは一撃で倒されて力を失った。
「や、やった!」
「って私たちも落ちてますってば! 早く魔法魔法魔法!?」
「ごごごめん! 《フライト》ー!」
間一髪、飛行の魔法が間に合う。
私たちはそのまま地上に軟着陸し、ペガサスは湖にポチャンと落ちた。
「「ふぅーーー」」
私とミクちゃんは安堵のため息をつき、直後に顔を見合わせて笑った。
「カナデさーん、大丈夫ー?」
「はーい」
ナディアちゃんもこっちに来る。
3人揃ったところで、私は彼女たちにお礼を言った。
「ふたりともありがとうございます。お陰で助かりました」
「いえいえ、あんなにペガサスが来るなんて誰も読めませんって」
「それだけカナデさんが魅力的だったのかもね~」
「そそっそんなことないですよ~」
私は両手をぶんぶん振る。
さて、お互いの無事を喜び合うのはここまで。
私たちはさっき撃ち落としたペガサスを湖から引き上げる。
「ああ……! ついにペガサスが私の手に……!」
ミクちゃんは感動した様子で目を輝かせている。
「やっぱり大きいですねぇ」
「うん。それに白くて綺麗だねー」
ナディアちゃんはペガサスの馬体をしげしげと眺める。
「それじゃ
《マテリアライズ》――物体の《素材化》は冒険者なら誰でも持ってる基礎スキルだ。
これを使うと、たとえばモンスターを一瞬でアイテム《素材》に替えることができる。
「せっかくだしミクちゃんがやります?」
「そうですね。せっかくですし……」
「あっ! ちょっと待って!」
その時、ナディアちゃんが急に待ったをかける。
「どうしました?」
「あのさ、《マテリアライズ》の前に少しお肉取ってもいい?」
「え?」
便利な《マテリアライズ》だが、唯一の欠点は《素材》以外の部分がなくなることだ。
ペガサスの場合は《天馬の翼》《天馬の角》《天馬の蹄》《天馬のたてがみ》。
それ以外は全部消えてしまう。
「確かに《マテリアライズ》するとお肉はなくなっちゃうけど……何で?」
「食べてみたいから!」
ナディアちゃんから返ってきたのは、とてもシンプルな答えだった。
私とミクちゃんは驚いてお互い顔を見合わせる。
「……もしかして、ナディアちゃんが今回の依頼を引き受けたのって?」
「だって空飛ぶお馬さんだよ!? 鳥肉味なのか馬肉味なのか気になるでしょ!」
「な、なるほど」
どうやら今回の彼女の好奇心は食欲にも向いていたみたい。
「どうします? いちおう、素材にならない部分なら食べても問題ないですけど……」
私はミクちゃんの顔色を窺う。
《マテリアライズ》自体は滞りなくできるが、これはもう気分の問題だ。
自分で食べたペガサスを天馬装備にするのはちょっと……と彼女が言うなら、それはもう仕方がない。
「……っぷ、あははは!」
さっきまでナディアちゃんの発言に面喰らっていたミクちゃんは、不意に大声で笑い出した。
「ペガサスを食べるって発想はありませんでした! でも言われてみれば、どんな味か気になりますねぇ!」
「でしょでしょ!」
……よかった。大丈夫みたい。
どこのお肉を食べるかで盛り上がるふたりを見て、私はこっそりと安堵するのだった。
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