天馬を求めて編
第15話 東都アクサリア
港町ゴヤーナから東都アクサリア行の船が出ていた。
元は東都まで徒歩で行くつもりだった。
けど船が出てるなら、乗ってみたい気持ちが勝る。
というわけで、私たちは海路で東都へ向かうことにした。
「船旅って楽チンだね~」
「はい。それに快適です」
船室のベッドに寝そべりながら、私たちは船旅を漫喫していた。
「でも本当に船のチケット奢ってもらってよかったの?」
「船に乗りたいって言ったのは私ですから」
「結構高かったんじゃない?」
それは確かに。
一等客室にしちゃったし。
まあでも大丈夫。
「私の方がお姉さんなんですから、気にしないでください」
私はちょっとカッコつけて胸を叩く。
貯金だけは山程あるのだ。
今まで使い途がなかったし。
「こんな贅沢な旅はじめてかもー」
ごろんっとナディアちゃんはベッドの上で転がる。
「けどあたしもお祭りでお金使っちゃったし、東都に着いたら仕事しないとなー」
「そうですねー」
今の私はナディアちゃんと同じフリーのソロ冒険者だ。
ソロは自力で仕事を探す必要があるが、実はギルドもソロ冒険者向けにクエストを斡旋している。
ただそれは大抵誰もやりたがらないようなあぶれ仕事だ。
まあ、ソロ向けって要するにギルドの誰も引き受けなかった仕事のことだしね。
報酬が低かったり。
難易度が高すぎたり。
拘束期間がキツかったり。
とはいえ。
「ナディアちゃんが一緒なら大丈夫ですよ」
「えーっ、それはあたしのセリフだよ。カナデさんレベルめちゃくちゃ高いんだし」
「いえいえ、魔法使いは前衛がいてこそですから」
これは本当。
魔法使いは魔法を撃つまでの間、誰かに守ってもらうのが前提のジョブだ。
あと私なら多少のステータスはバフで底上げしてあげることができる。
だから必要なのは信頼のおける前衛。
どんな高レベルの人でも、フェニックスやドラゴンのような伝説級のモンスターに怖じ気づくことはある。
その点、ナディアちゃんなら安心して任せられる。
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな」
ナディアちゃんは照れ臭そうに頬を掻く。
それから彼女は立ち上がって。
「せっかくだし甲板に出てみようよ。イルカとか見られるかもしれないし」
「そうですね。行ってみましょう」
そんな風にして船に揺られること二日。
私たちは東都の港に到着した。
「うわぁ高い建物! ここがアクサリアなんだね!」
東都アクサリア。
西都リベルタに並ぶ大都市だ。
元は外国との大交易地で、そこから大きく発展して王国の首都となった。
物も人も何でも揃う街といわれ、実際大概の汎用アイテムはここで買い揃えられる。
ゲームでも大半のプレイヤーはここを拠点にしていた場所だ。
「ほわぁ~~~!」
ナディアちゃんの目は好奇心に惹かれてあっちに行ったりこっちに行ったりしてる。
最初はギルドかなーと思ってたけど。
ま、後回しでいっか。
「とりあえず観光しよっか」
「うん! うん!」
私の提案に、ナディアちゃんは何度も頷く。
というわけで、私たちは市場へ向かった。
王城通りの左右に開かれた市場は、外国の輸入品から産地直送の野菜まで、幅広い品々が並んでいる。
うぅ……道が広いからマシだけど、やっぱり人多いなぁ。
私はコッソリナディアちゃんの服の裾を指で摘まみ、彼女と離れないようにする。
その彼女は輸入雑貨商らしきおじさんと、怪しげな商品を手に話し込んでいた。
「おっちゃんおっちゃん! この木組みの箱って何ー?」
「そりゃアビスの寄木細工だな」
「へぇー何か入ってるの?」
「いや、適当なものをふたつ入れて箱を閉じると、中でランダム合成が起きるんだ」
「じゃあできるものは運任せってこと?」
「確かにそうだけどよ、上手くいきゃゴミから超絶レアアイテムが出ることもあるぜ?」
「へぇーーー」
めちゃくちゃ怪しい。
完全に詐欺の売り文句だ。
「ナディアちゃん、あっちで外国のお菓子売ってるみたいですよ」
「ホント!?」
私は時折彼女を誘導しつつ、ブラブラと市場を巡る。
これがなんだかんだ楽しかった。
さすがは王国一の大市場。
さっきみたいに変な商品も多いけど、中には掘り出し物もたくさんあった。
私もいくつか雑貨やアクセサリーを購入する。
そうしてショッピングを楽しむ内に、気づけば正午を回っていた。
さすがに歩き疲れたので、私たちは大通りをひとつはずれた場所のオープンカフェでひと休みする。
「おもしろいものたくさんあったねー」
「ですねー」
ナディアちゃんの両手は買い物袋でいっぱいだ。
「ここでお昼食べたらギルドを覗きにいってみましょうか」
「そうだね」
それから私たちは軽く腹拵えをして、東都の冒険者ギルドへ向かう。
「どんなクエスト受けます? 報酬がいいのとか期間が短いのとか」
「一番楽しそうなの!」
そんな会話をしながら、観音開きの扉をくぐる。
と。
「うえぇーん、魔法使い様ー! お願いしますよ~!」
いきなり鼓膜を貫いた少女の叫び声に、私の耳はキーンっとなった。
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